抗州ウルトラマラソンで井上真悟選手が3位入賞〜中国選手の躍進と今後のウルトラマラソンで思うこと〜

まだ2017年の24時間走世界一は決まっていない!!〜井上真悟 中国・杭州ウルトラマラソンを走る〜で紹介した井上真悟選手が12月9-10日に中国 抗州大学で初開催された抗州ウルトラマラソンで256.800kmを走り3位入賞しました。

<スポンサーリンク>


井上選手から大会前に話を聞いた時、世界選手権で上位に入った選手に井上選手がどう挑むのか?と考え、開催国である中国の選手が上位争いをするとは思っていませんでした。

その理由はアジア各国の記録を見たら分かると思います。DUVウルトラマラソン統計で各国の歴代記録を調べてみました。(この大会開催前の記録です。)

日本

285.366km
275.684km
273.708km

中国

246.319km
243.300km
237.110km

韓国

241.200km
233.525km
230.083km

台湾

244.835 km
241.600km
238.790 km

アジア歴代記録を調べたらなんと23位まで日本が独占しています。

アジアでの日本一強時代は今大会で終わりました。

<スポンサーリンク>


その大会について井上選手はこう話しています。

【大会運営について】

この大会は、私が台湾のレースで過去に競いあってきた中国の著名なウルトラランナー趙紫玉選手が監修をおこない、台湾ウルトラランナーズ協会のサポートのもと生まれたものですが、その運営は台湾一の人気を誇る東呉国際ウルトラマラソン大会と遜色ない素晴らしいものでした。

具体的な魅力の一つ目は、トラックレースでありながら抗州の夜景やネオンが味わえる立地を活かしているということ。そして二つ目は、選手が心地よく走れるようなアップテンポの音楽による後押しがあることです。この工夫は脳科学的にも、24時間走の記録向上に役立つ利点がありますが、特に今回の大会では選手の心理状況に寄りそって会場で流れていた音楽が時間帯毎にうまく計算されていた感がありました。

また、メインステージでは、音楽にあわせたダンスパフォーマンスが日没まで行なわれており、会場へ訪れた観戦者やリレーマラソンの部へ参加した市民ランナーにとっても楽しみながら24時間走者たちと同じ場を共有できたのではないかと感じています。

※ 今大会の運営モデルとなった東呉国際ウルトラマラソン大会については、 今週のTeam R2 東呉国際ウルトラマラソン・5時間リレーマラソンの部(上田 怜さん) をご参照ください。

【気象コンディションについて】

この時期の抗州は、東京と同じか少し寒い気候となっており、深夜には2℃まで冷え込む時間帯がありました。

競技を最後までまっとうした多くの24時間走者たちにとってこのような条件下で本当に危険なのはレース終了直後です。精神的な気の緩みと、24時間で蓄積した疲労、消費カロリーにより低体温症で命の危険さえある場合もあります。今大会の表彰式では急きょ担架で搬送された選手もいましたが、大会主催者は、その点も真摯に受け止めており、来年の開催時期をより選手の健康面に配慮した季節、そしてレース終了直後のサポート体制を考えているとのことでした。

【シューズについて】

私は基本的に、練習で十分に使用チェックをしていない道具をぶっつけ本番で使うことはないのですが、今回は日本で入手困難なナイキのズームフライを大会直前に中国国内で手に入れることができ、数回の使用テストをおこなった上でレース序盤戦での使用に踏み切りました。

ナイキ・ズームフライシリーズは、今年の5月にケニアのエリウド・キプチョゲ選手が非公式ながらもフルマラソンで世界新となる2時間0分25秒を記録したときに使われたシューズ、福岡国際マラソンで大迫傑選手が使用したシューズの基本設計を市民ランナー向けに市販化されたものです。最大の特徴は、厚底のソール形状が効率的な重心移動を生み出すことです。

ただしその為には前足部からの丁寧な接地をし続けなければなりません。本来ならば練習で十分な慣らしをしなければ、使い慣れていない筋肉のダメージにつながるリスクもありましたが今回は筋肉の全体的な負担を分散させるためにレース序盤の8時間のみに割り切って使用しました。

【レース展開について】

序盤戦、上位選手たちは24時間走世界記録(303.306km Yiannis Kouros 1997年)に迫るキロ4分20秒〜40秒台のハイペースでレースを展開してゆきました。

トップを走っていた郑汝就選手は、冬場のレースにも関わらず裸足での暴走を続けており、郑汝就選手ふくめ、その流れに乗った多くの選手が後半失速するであろうことは予測できました。むしろ、序盤戦でセオリー通りの温存をしているフランスのルドヴィック・デルミ選手の位置どりに警戒しながらレースを進めてゆき、8時間目から12時間目までで狙いどおり総合順位を9位から4位へと少しずつ上げてゆきました。

郑汝就選手を追い抜き、総合3位まで順位を上げた14時間目からゴールまでの10時間、トップ1位、2位に位置していた梁晶選手と斯国松選手の2人には、正直「遊ばれた」という印象しかありません。彼ら2人の走りには優勝、準優勝という目的以上の狙いはありませんでした。結果、最初の12時間で開いた約14kmのリードをうまく使われ、温存されたまま最後まで逃げ続けられ、今回のレースでは完膚なきまでに敗北を味わされました。

ダメージを最少に抑えて賞金獲得したその走りは、ある意味でプロとしての次元の高さの表れでもあります。今大会で梁晶選手と斯国松選手はともに従来の24時間走中国記録(246.319km)を大幅に上回りましたが、おそらくそれは彼らの目的ではなかったハズです。

もし、今大会が新記録更新や世界ランキング1位獲得の際にボーナス賞金の支給されるルールであったとしたら、今大会の優勝記録は歴史に残るものであったかもしれません。

【今後のウルトラマラソンについて想うこと】

日本国内では基本的にウルトラマラソンの賞金レースはありませんが、ウルトラマラソンが競技としてメディアにも取り上げられやすい海外の大会では、賞金レースとして主催することで主催元はそれに見合った広告価値を生み出せていると感じます。

日本の市民ランナーが日常的に活用しているFacebookは、中国では規制のため連動ができませんが今大会前には中国独自のSNS「WeChat」をとおして市民ランナーのあいだでは優勝予測の話題でとても盛り上がっていたとも聞いています。

また、これは運営のしっかりした台湾の東呉国際ウルトラマラソン大会にも言えることですが、両大会ともにレース中の迅速な記録掲示やLIVE配信のための機材投資に力を入れており、ある意味では本場ヨーロッパの大会運営以上にスマホでの気軽な一般観戦が可能なプロ競技としての土壌が整いつつあるのが今のアジアの現状です。

24時間走は、ただ走っているその場面だけを見れば「なんでこんなことやってるの?」って、感じてしまうかもしれませんが、視点を変えれば霊長類最強の長距離走持久力の純粋な頂上決戦でもあります。

全哺乳類のなかで、僕たち人間ほど長く走る能力に特化した動物はいないからです。

有史以来「24時間で人はどれだけ長く走れるのか!?」をココまで競わせた時代も過去にはないハズです。

また、私はこの1年間「ウルトラアカデミー」というセミナーイベントを主催し、実体験に基づくウルトラマラソン攻略のノウハウやテクニックの学びの場をトップ選手たちと共同で作ってきましたが、第一線で活躍してきた選手たち一人一人の視点は、例えウルトラマラソンをやらないとしても一般の市民ランナーにとって有益なものばかりだったと確信しています。

つまり、海外でプロ選手としてレースで賞金を得つつ、培ったノウハウや知識をプロ講師として市民ランナーへ伝えながらマラソン市場の発展に貢献してゆく。

そんな社会での生き方も今ならできるハズです。

大学時代に駅伝のメンバーには選ばれなかったけど、実業団に入ったりすることはできなかったけど、それでも走ることが好きで、走ることが自分の人生の中心にあるような、野心あるこれからのランナーへ、この記事が届くことを願っています。

 

<スポンサーリンク>


今回の記録はまだDUVウルトラマラソン統計には反映されていませんが、独自に当てはめてみました。上位20人が250km超です。そのうち日本人選手は4人ですが本大会で中国人選手がTOP5に2人が入るなど日本に匹敵するウルトラマラソン強国になったと言えるでしょう。

2017年 24時間走世界ランキング(2017.12.12時点)

  1. 270.870km 石川佳彦(日本)
  2. 267.701km 梁晶(中国)
  3. 267.187km Bialobrzeski, Sebastian(ポーランド)
  4. 266.515km Steene, Johan(スエーデン)
  5. 265.304km 斯国松(中国)
  6. 264.506km 高橋伸幸(日本)
  7. 261.605km 楢木 十士郎(日本)
  8. 260.077km Ruel, Stephane(フランス)
  9. 259.403km Mihalik, Norbert(ハンガリー)
  10. 258.662km Reus, Florian(ドイツ)
  11. 258.172km Leblond, Olivier(アメリカ)
  12. 256.800km 井上真悟(日本)
  13. 256.688km Dilmi, Ludovic(フランス)
  14. 256.443km  Kronen Taranger, Bjørn Tore(ノルウェー)
  15. 256.246km Radzikowski, Andrzej(ポーランド)
  16. 255.375km Rudolf, Tamas (ハンガリー)
  17. 254.908km Csecsei, Zoltan(ハンガリー)
  18. 254.503km Batsberg, Bruno(デンマーク)
  19. 253.219km Brunner, Radek(チェコ)
  20. 252.720km Slaby, Steve (アメリカ)

(参考)女子選手の250kmオーバー(2017年)

ちなみに女子選手にも250kmオーバーが4人という非常にハイレベルに年になりました。

  1. 259.991km Bereznowska, Patrycja(ポーランド)
  2. 256.405km Dauwalter, Courtney(アメリカ)
  3. 251.078km Niwinska, Aleksandra(ポーランド)
  4. 250.622km Nagy, Katalin(アメリカ)

井上選手が話しているように、中国や台湾では、ハイレベルなウルトラランナーが育っているだけではなく、そのようなウルトラランナーがプロランナーとして活躍していける土壌が出来上がってきているようです。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA