カテゴリー別アーカイブ: 科学者・医師の見解

ランナー貧血のアラーム 5人の経験と内科医のアドバイス 後編

ランナー貧血のアラーム 5人の経験と内科医のアドバイス 前編

ランナー貧血のアラーム 5人の経験と内科医のアドバイス 前編 から続く

<スポンサーリンク>


Kさん

①(貧血について、数年前になった一番ひどかった時のことです。)貧血に気づかず走っていたときは、走れば走るほど、どんどん走れなくなるという感じです。

頑張っても心臓バクバクでペースをあげられない、ゆっくりペースでも長く走れない、いつも行く慣れたコースで、何度も立ち止まってしまう、ひどいときは下り坂でさえ、走りきれなくて止まってしまう。疲労のせいかと2〜3日休んでみてもよくなることはない、友達と走っても、一緒に走れず遅れる。走れない自分が嫌になる感じでした。

②受診のきっかけは、そんな体調がおかしいと感じ、しかし、何が原因なのか自分では思いつかない。ネットで「ランナー走れない」とか検索したところ(ウルプロの記事も読んだと思いますが)やっと貧血というキーワードにたどり着き、貧血外来を探して受診。

③ひどかった時は血液検査で、ヘモグロビン7、フェリチン2で貯蔵鉄もなし。赤血球の形や大きさが、異型、大小不同みたいなことを言われ、「こんなんじゃ、酸素運べない」と医師に言われました。

④一応食事は3食しっかり食べているし、バランスにも気をつけていたので、ここまでになるまで受診しなかったのは、今までなったことがなく、自分が貧血になるわけないという健康に対する過信があったからです。スポーツ貧血という言葉をきいたことことはあったが、トップレベルで毎日走るような人達がなると思っていました。

初めてウルトラマラソンにでて、練習も含めて長距離走をすることが前より増えていたことなどで、知らないうちに鉄分の供給が足りなくなり体の貯蔵鉄が枯渇、少しずつヘモグロビンが減っていったのだと思います。

⑤息苦しくなく気持ちよく走れたと思い始めたのは薬を飲み始めて2〜3週間経った頃からでした。この時は、体の細胞が鉄分を待ってた!という感じでどんどん吸収していったようで効きが良かったと思います。

⑥アドバイスというか、自分への心構えですが、食事など日常生活からもっと気をつけていきます。気をつけていてもなるときはなってしまいますが早く気付けると思います。

私は調子がいい時は、調子にのって練習したり、距離も伸ばしてしまったり、貧血のことは忘れてしまいます。元気な時でも、健診の機会を利用したり、定期的に血液検査をやってもらってチェックしておくことも必要かなと思います。

今年2月になったときは、早めに気がつくことができて、そこまで悪くなりませんでした。いつもよりペースがあげられないとか最後まで維持できないとか、調子が悪いことが続くなら、早めに受診し、貧血がないか確認してもらうようにしようと思います。

自覚症状がでるほどのときは、おそらく治療が必要な状態まで悪くなっているんだと思いますので、気がついたら早めの受診が大事だと思います。

<スポンサーリンク>


Oさん

①昨年の9月に信越五岳110キロ、10月にハセツネ71キロを走ったあたりからスピード練習をしても以前のスピードが出せなくなりましたが、疲れているのかなぁと思っていました。10月末にハーフマラソンに出ましたが、必死に走ってもベストタイムより5分も遅く、練習が足りないのか?疲れが抜けていないのか?と思っていました。思い返せば、職場の階段も3階まで上ると息切れがしてくらくらしていました。

②③11月の中旬に職場の秋の検診があり血液検査をしたところ、ヘモグロビン10.5 ヘマトクリット33 MCH26と結果をもらい貧血に気がつき、内科で精査したところ、フェリチンも5と低く、鉄剤をのみ始めました。
飲み始めて3日後の11月末に開催されたフルマラソンは、いつもならキロ4’40~4’50のペースで入るのに、キロ5分のスピードすら出せず、しかも相当に苦しくてハーフでリタイヤしました。

④原因は3週間のスパンでロングレースを2本走ったことではないかと思っています。

⑤鉄剤を飲み始めて2週間もすると体は少しづつ楽になり、1ヶ月後の再検査では、フェリチンは27、ヘモグロビンは11.5にまで回復し、スピード練習も以前のペースが徐々に戻ってきました。その後も鉄剤を飲んでいますが、ヘモグロビンは12.5程度に回復し維持できています。鉄剤を飲み始めて2か月後にはフルマラソンも若干スピードは遅かったけど完走できました。スピードが上がらなかったのは、貧血期間中に思うように練習ができなかった結果だと思います。

⑥しっかりと食事を食べることと、肉や牡蠣、野菜など鉄分の多いものをなるべく食べるように心がけています。走っている以上は貧血になりやすいので、もうしばらくは鉄剤の治療を続ける予定です。貧血が治ってもスピードが戻らないのではないか、ただ単に走力が落ちただけではないかと心配しましたが、鉄剤を飲んで数値が戻ったら、ちゃんと走れるようになりホットしました。

<スポンサーリンク>


佐藤恵里医師からのアドバイス

スポーツ貧血の治療には、内服による鉄の摂取が勧められます。

食事から鉄を摂取することは大事ですが、ヘモグロビンの数値が正常値より下がっている場合、貯蔵鉄であるフェリチンの値が一桁まで下がっている場合などは、食事だけでは回復が間に合わない事が多いです。

鉄剤を内服すると身体によくない、本来の造血機能を低下させると誤解をしている方もいますが、内服に関してはそのような副作用はありませんので、安心して内服して頂きたいです。

ただ、鉄剤を内服すると「便秘、下痢、嘔気」のような胃腸の副作用が出ることがあります。

いずれも、内服を中断するとすぐに消える軽い副作用です。
そのような副作用が出た場合は、鉄剤の種類や量を変えたり、便秘薬や胃腸薬を併用することで対応が可能ですので、主治医に相談してください。

以前、静脈注射による鉄の投与のし過ぎで内臓に障害が出た、というニュースがありました。貧血がないのに静脈注射をして鉄を身体に入れる事は絶対に良くありません。しかし医学的に必要な量を計算して、医師の判断で治療目的で投与する場合には問題はおきにくいです。

ただし個人的にはスポーツ貧血の治療には静脈注射はお勧めしていません。可能な限り内服の方が良いと思っています。

 

佐藤さんは新松戸のけやきトータルクリニックに内科医として勤務しております。貧血などお悩みの方の強い味方になってくれるでしょう。

最後に

sub3やsub3.5など自分自身の目標がある方は、思うように走れないと、練習不足と自分を責めて、焦って練習量を増やすケースは少なくないと思います。その結果、さらに悪化し、目標達成どころか走ることさえできなくなることもあります。

絶対に目標を達成したという強い気持ちが、不安にさせ、30キロ走が足りない。スピード練習が足りない。友人が目標達成した時の走行距離に届いていない。とコンディションを良くするよりも、走行距離を優先させると非常に危険です。

また、自分は栄養バランスに気を使っているから貧血にはならないなんて思わないでください。身体に入る栄養以上に消費すれば当然ながら不足します。

思うように走れない時に、その原因は何か?と立ち止まることも大事なことです。

今まで感じたことがないような疲労感が続くようであれば、医師に相談してください。早ければ早いほど良いです。

また、自分では貧血と気づかないこともあります。特に栄養バランスの取れた食事など健康面に気を使っている方や、体力に自信のある方の中には、貧血は自分には無縁だと思っている方もいるでしょう。そのような方が気づくきっかけになるのが、コーチや仲間からの一言です。

ウルプロ練習会では、メンバーが大会やアイテムの情報交換に加えて、貧血など健康面にについての情報交換をしている場面をよく見かけますが、そのような経験に基づいた情報交換ができる場は貴重だと思います。



ランナー貧血のアラーム 5人の経験と内科医のアドバイス 前編

今までは楽に走れたペースが思うように走れないと、練習が足りない。根性が足りない。と走行距離を増やしてしまう。するとますます走れなくなってしまった。

自分自身は一生懸命走っているのに、周りからサボってるのではないか?という目で見られて自己嫌悪に陥った。

など、経験した方は少なくないと思います。

そもそも女性は貧血リスクが高く、またランナーは貧血リスクが高い。したがって女性ランナーは常に貧血リスクを意識した生活をして欲しい。もちろん男性でも貧血に苦しんでるランナーはたくさんいます。

特に、タイムを追い求め始めたタイミングが、気温が高く発汗量が増えるこの時期に重なると危ないです。

そこで、貧血で思うように走れなくなり、走ることが嫌いになってしまうランナーが一人でも減るように、貧血経験のあるウルプロメンバー5人に経験したことを教えてもらいました。

頭に入れておくと、今は大丈夫でも、貧血のアラームが鳴ったら気付くかもしれません。早く気付けば早く改善します。

<スポンサーリンク>


質問内容

①検査を受ける前はどのような状態だったか?
②貧血検査を受けたキッカケ
③だいたいの検査数値
④何が原因だったか?
⑤治療開始から状態が戻った期間
⑥自分自身の心構えやランナーへのアドバイス

Kさん

①とにかく我武者羅に距離を追い求めて走っていた時期で、夏場も日中水をかぶってガンガン走っていました。残暑の9月に皇居1周29分かかりましたが、この時は「あ~夏の疲れがでているんだぁ」と思っていました。

秋になって頭痛がするのと、上手く表現できませんが、走っていて頭に酸素が届かない!?感覚が頻繁になり、また走り終わると目の前がチカチカして身体がガクガクしたり.極めつけは走ろうと思うのに脚が前に出なくなりました。頭痛はするし、脳から脚を動かす指令が届かないので最初は脳の病気かと思いました。

②「マラソン」「頭痛」「酸欠」「足が前に出ない」などキーワードでネット検索をしてみると「貧血」がヒットし、健康診断の結果もろくに見ていなかったことを思い出して見たら、ヘモグロビンに※印がついていて(基準値割れ)、尚且つFeの値も前年度の半分以下になっていました。これからマラソンシーズンに入るので焦って病院へいきました。

③ヘモグロビン 9.0  フェリチン 4

④全てに対して意識の欠如でした。自分は健康だから大丈夫という意識があったから健康診断の結果すら見ていませんでした。

当時は、ケア、疲労回復、栄養管理などの意識が低く、とにかく走ったら走りっぱなし状態でした。

⑤鉄剤を服用して数値を戻しては在庫がなくなる走りを2年位繰り返しました。私の場合は6か月鉄剤服用して正常値に戻し、その後6か月で少しずづ在庫がなくなっていく感じでした。走りが戻るには服用して2か月はかかったかと思います。

⑥当時は、日々走るのがきつく記録はどんどん下降しました。また、鉄剤を服用して正常値に戻すことは簡単ですが、その繰り返しではいけないと、最近ようやく距離を走るだけが練習ではなく、食生活、ケアなど意識を高めることがどれだけ大切かを考えるようになりました。

時間はかかるかもしれませんが、今日から始める小さな意識改革をコツコツ継続することで快方に向かいます。焦らず、弛まず、怠らず!完治してかっこよく走っている自分を想像しながら前へ進みましょう!

私は意識を高めるようになってから貧血は再発知らずです。

今はウルプロメンバー間で色々情報共有もできますし、練習会に参加をするとホント勉強になります。

<スポンサーリンク>


Iさん

①以前走れていたペースで走れなくなり、息苦しくて心拍がすぐに上がってしまいました。

②以前も貧血で治療をしていた時期があり、その頃と同じように浅い呼吸しかできず急に心拍が上がる、止まるとクラクラする感じがあったので、予防も含めて検査を受けました。

③ヘモグロビン 12.0  フェリチン 10

④2月に体調が良くないと感じて、貧血かな?と検査を受けました。その際はヘモグロビン12.8 フェリチン22でした。貧血ではなかったので、走力が落ちてる。練習が足りない。と思いました。元々貧血気味なのに、走る事ばかり考えてしまい日々の食生活でのケアもできていなかったので、フェリチンの数値が半分になってしまったのです。

⑤まだ、治療を始めたばかりですが、以前の貧血の時より軽い段階で気付けたので、少しづつ走りが楽になるといいなと思っています。

⑥暑い季節になると汗をかいてさらに貧血になりやすいので、その前にしっかり検査を受けて悪化させないようにする事が第一だと思います。

<スポンサーリンク>


Nさん

①②検査を受ける前は全く走れず、スピードも出ないし、すぐに気持ちが悪くなりました。

③昨年10月に胃腸炎からくる熱中症と脱水で倒れて、血液検査をしたときのヘモグロビンは10.5でしたが、このときは特に何も言われませんでした。12月に別の病気の疑いがあり内視鏡検査と血液検査をしましたが、やはり数値は10.5でした。このときは鉄剤を飲むとさらに胃が荒れるし、ヘモグロビンの数値も気にするほどではないから貧血の治療はしないとのことでした。

熱中症で倒れときは30km走後でしたが、フラフラだった記憶があります。病院で鉄剤を処方してもらえなかったので3月からヘム鉄のサプリを飲んでいました。

3月から疲れが抜けない日々が続き、4月のハーフマラソンが終わってから、さらに疲れが抜けず、だるさ、立ちくらみ、むくみ、イライラ、頭痛が酷くなりました。ケッズトレーナーの担当者からもNさんが疲れてハイアルチで走れないって珍しいですねと言われました。12月までは毎週3時間LSDや30km走をしても疲れなかったのに疲れて走れなくなり、これは貧血では?と思い内科を受診することになりました。

ヘモグロビンは12ありましたが、フェリチンは4しかありませんでした。

年末はフェリチンを調べてなかったので、予測ですが、当時はフェリチンを使って保っていたのが、使い切ったことからキツくなったのかもしれません。

④走りすぎ?が原因なのかよくわかりませんが、家族も貧血持ちが多いので遺伝もあるのかもしれません。

⑤治療を始めてから3週間ぐらいから体が楽になり走れるようになりました。今はウルプロ練習会でのフォーム改善もあり、今まで以上のペースで走れるようになりました

⑥いつものように走れない、だるい、何かおかしいと思ったら、すぐに内科を受診することをオススメします。

 

ランナー貧血のアラーム 5人の経験と内科医のアドバイス 後編 へ続く

ランナー貧血のアラーム 5人の経験と内科医のアドバイス 後編



ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜後編

ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜中編

ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜中編 から続く

<スポンサーリンク>


ランナーズハイを意図的に起こすための10のヒント

ランナーズハイは最初から最後まで気持ちよく走れていれば発生しない。目標に向けてしっかりと準備ができていればランナーズハイなど必要ないのだ。

ただ準備をしていても予期せぬトラブルに襲われることはある。何らかの理由により思うように走れなくなった時にはこれから紹介することを思い出してほしい。

①復活を信じて諦めない

苦しい状況でも必ず復活はあると信じて決して諦めない。これはランナーズハイの入り口だと自分を奮い立たせる。

②苦しい理由を分析する

なぜ苦しいのか、客観的に今の状況を分析する。呼吸が苦しいのか、脚が痛いのか?など阻害要因を明らかにし改善・回復を試みる。

③抜かれたランナーを追う

ペースが落ち続けた時は自分を抜いたランナーを追ってほしい。短い距離でも効果的だ。なぜならペースが落ち続けている時は腰が落ちるなど効率の悪いフォームになっている可能性が高い。ペースを上げることで改善することがある。

④言い訳は考えない

目標を達成できない言い訳を考え始めると気持ちはネガティブな方向に進むので、その場をどう楽しむかを考える。

⑤誰かのために頑張る

自分を支えてくれる人・応援してくれる人のことを考える。また苦しくなったランナーをなんとかしてゴールまで導こうと引っ張ることで自己陶酔しランナーズハイになることもある。

<スポンサーリンク>


⑥苦しい時ほど笑顔で声を出す

調子が悪くなった時こそ、沿道の応援に大きな声で応える。そうすれば大きな声援が自分に届く。その声援が大きければ大きいほど元気になれる。

⑦音楽の高揚感・リズムを利用する

選手を応援する和太鼓やブラスバンド演奏を積極的に利用し、気持ちを高め、リズムを作り出していく。

⑧ライバルのことを考える

負けたくないライバルがいるなら、今の自分の状況をどう思うだろうと奮起させる。

⑨小さな成功を積み上げる

次の角まで頑張って走ろうとか、その時できる小さな成功を積み上げていく。そして小さな成功をした自分を褒めて気持ちを高めていく。

⑩自分を信じる

達成できると信じられる根拠を事前に頭に叩き込んでおき、苦しくなった時にできないはずがないと強気になる(小谷)

 

ランナーズハイをおこすための10個のヒントを書いたが、大事なことは諦めないこと。そして打開策を考えることだ。これがランナーズハイをおこす前提条件になる。ネガティブな感情をポジティブな感情に変えた瞬間に大きく状況は変わる。

<スポンサーリンク>


エピローグ

2018年11月11日11時直前、神宮外苑24時間チャレンジの応援に集まった方々の「速い!」「凄い!」という驚きの声が耳に入り始めると、私は徐々に集中力の高まりを感じた。すると少し前まであれほど走れなかったのが嘘のように身体が動きはじめた。ペースが上がるたびに歓声は大きくなり、その歓声に応えようとさらにペースを上げた。完全にトランス状態になり、ラスト30分以上、自分でもありえないペースで走った。最後の1周(1325メートル)は5分18秒で走りきった。いわゆるキロ4だ。

内臓の不調で走れない時間が長かったとはいえここまで170キロ以上走っているのに身体がぐんぐん前に進む。その時の私は誰かに勝ちたいとか、何キロ走りたいとかそんな気持ちはまるでなかった。ただ声援を受けて走ることが気持ちよかったのだ。

以上

こちらは神宮外苑24時間チャレンジを走ったあと書いた記事です。

2018神宮外苑24時間チャレンジの感想や気づき①〜記録は悪いが記憶に残るレース〜



ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜中編

ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜前編

前話はこのように終わった。

また自分の中でどのようなことを考えるかというのも大きいと思います。自分がゴールする瞬間や優勝して表彰台に立つ姿など、嬉しく楽しいシーンを想像することも役立つ可能性が大きいと思います。つまり、いかに報酬系を活性化させるかが鍵になると思われます。

 

本田の話の中に興味深い一文があった。それは肉体的苦痛の存在が必要だということだ。そもそも終始調子良く走れているならランナーズハイは発生しない。私が経験したのも全て苦しんだ後だ。

<スポンサーリンク>


□東大卒のウルトラマラソン日本代表

次に24時間走世界選手権日本代表経験のある小谷修平氏にインタビューを行った。

ランナーの学歴は高いと言われているが、小谷もその例外ではない。小谷は東京大学工学部卒業後、修士課程を修了した。現在はランナー向けの商品を販売する会社を経営している。

まずウルトラマラソンを始めたきっかけを聞いた。

私は高校までは勉強して真面目に過ごし良い学校に入れば人生は成功すると思っていた。それが東大に入ったら勉強ができるのは当たり前で、何か抜き出た部分がないと埋もれてしまい、周りから評価されないと感じ始めた。

当たり前のことだが気づくのが遅かった。自分がどんな人間なのか見つけることができず苦しんでいた時に出会ったのがウルトラマラソンだった。頑張れば何かを与えてくれると思い一心不乱に走り続け、目標にしていた日本代表になることができた。

 

□神宮外苑を24時間走る大会

小谷に以前から聞きたいことがあった。それは私も出場した2016年12月開催の神宮外苑24時間チャレンジのことだ。

その大会は翌年の世界選手権日本代表選考会であり強い選手が集まる。24時間走にはゴールテープはない。当たり前だが10キロの大会なら10キロ先にゴールがあり、100キロの大会なら100キロ先にゴールがあるが、この大会のゴールはスタートから24時間後だ。1周約1325メートルの周回コースをどれだけ走ったかを競う競技だ。

上位争いに絡まない私も常に上位選手の走りを見ながら走る。通常の大会であれば折り返しがない限り、スタート後に上位選手の走りを見ることはできないが、この大会はその一部始終をコース上にいる選手が共有する。上位選手であっても苦しい場面では、数十キロ後ろを走る選手に何回も抜かれる。この大会で小谷は倒れるのではないかという状態で走り続け3位に入り日本代表に選出された。

<スポンサーリンク>


□ライバルがいたから走り続けることができた

この時のことを小谷はこう話した。

18時間経過時点で上位4人に入っていたので、このまま順位を守れば代表になれるという気持ちがある反面、このまま24時間持つのか?後ろに抜かれないか?と不安で仕方がなかった。また単調なペースのためボーとし集中力も落ちてきた。さらに全身が鉛のように重く順位を守ることだけを考えていた辛い時間帯だった。

 

多くの人間は常に不安を作り出す。この時の小谷の不安はいつ後続選手に抜かれるかであった。意識は自分の後ろにあったのだ。

その小谷に変化が起こったのは、日本代表の楢木十士郎選手に抜かれた時だった。何度も死力を尽くし競い合った、絶対に負けたくないライバルが、小谷の前に出た直後に、「負けてたまるか!」とペースを上げた。そこから二人は24時間経過するまでお互いずっと見える範囲で走っていたという。

小谷はこう振り返った。

それまでは4位のラインばかり気にしていたが、楢木さんを追いかけてからはそのことは頭から消えた。とにかく彼だけには負けたくなかった。もう一度再現しようと思ってもできない、心身ともに極限状態の中でも身体を動かすことができた記憶に残るレースだ。

<スポンサーリンク>


誰かのためにという気持ちが限界を超えて走らせてくれる

楢木選手だけには負けたくないと話す理由について小谷はこう話した。

レース前に、私を24時間サポートしてくれる専属ハンドラーから楢木選手に勝ってほしいと言われたので、何とかその期待に応えて喜びを共有したかった。また2015年大会のラスト1時間は楢木さんとデットヒートを繰り広げ、会場に集まった応援の方々は興奮しお祭り騒ぎになった。真剣に走れば人の心を動かせるという陶酔感のようなものを感じた。そのようなことが重なり2016年神宮でも応援してくれる方の期待に応えたいと思っていた。

 

苦しい状態からスイッチが入り、心地よくどこまでも走れるようになるのが一般に言われているランナーズハイであるが、2016年の小谷は通常であれば動くこともできない疲弊しきった身体で最後まで走り続けた。小谷も一種のランナーズハイ状態だったと話している。

この時の記録は248キロで同年の世界ランキング15位。これは東京駅から浜松駅の距離を超える。浜松町ではない。

ランナーズハイを意図的に起こすための10のヒント

ランナーズハイは最初から最後まで気持ちよく走れていれば・・・

ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜後編に続く

ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜後編

ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜前編

この文章は、私が半年間通った、宣伝会議 編集者・ライター養成講座の卒業制作です。これから編集者やライターになりたい方だけではなく、現在出版社で仕事をしていたり、フリーライターをしていたりと、とにかく書くことが好きな方々が100人以上集り講義で学んだことを生かして卒業制作にチャレンジしました。

まだ全部は読んでいませんが、非常にレベルの高い記事もありますし、私が全く知らない、興味のない分野の記事を読むことで、こんなことがあるのか!など新たな気づきもありました。

その提出された卒業制作を、この業界で著名な方々が選考委員となり最優秀作品2点、優秀作品8点を選考しますが、私のこの記事も優秀作品に選ばれました。

最優秀作品になると、宣伝会議や他のメディアに掲載されることから、このページで掲載することができなかったかもしれませんが、優秀作品はその限りではないので紹介します。

提出物は雑誌に掲載するような縦書き3段でしたが、WEBページは横書きなので、少しイメージが変わるかもしれません。またWEB用に少し修正します。

優秀作品に選ばれた時に書いた記事はこちらです。ぜひこちらを読んでからお読みください。

10本目の金の鉛筆〜3年前の忘れ物が私の手元へ〜

<スポンサーリンク>


ランナーズハイは意図的におこせるのか?

〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜

プロローグ

2013年6月、私は北海道で開催されたサロマ湖100キロウルトラマラソンの65キロ地点を走っていた。

自己ベスト(8時間56分)更新を目指しスタートしたが、中間点を過ぎると徐々にペースは落ちはじめ、自己ベストどころか9時間を切ることも難しくなった。激しい疲労感から気持ちはネガティブになり、言い訳ばかり考えていた。

「練習できてないから9時間半でも十分」と脳裏に浮かんだが、「それで良いわけない!」とすぐに打ち消した。弱すぎる自分に腹が立った。その怒りがバネになり、私を抜いていったランナーを追いかけ追いつくと、さらに前のランナーを追いかけた。速いペースなのになぜか苦しさは消え、力が漲ってくる不思議な感覚だった。ランナーを抜き続けることでその高ぶりは加速していき、気づくと絶望的だった自己ベストも見えてきた。

その時は記録より元気に走れていることが嬉しく、この瞬間をできるだけ長く感じていたかった。中盤まで感じていた身体の痛みや疲労感も消え去った。このままゴールまで、いやゴールを突き抜けてどこまでも走ることができる。自分が鉄人にでもなったかのような高揚感に包まれていた。

残念ながら、それは89キロ付近でスイッチが切れたように終わってしまった。それは折り返し場所を間違えそれに気付いて引き返した瞬間だった。そこからは痛みと苦しさに耐え8時間53分でゴールしたが、自己ベストを更新した嬉しさより、あの感覚をまた味わいたいという気持ちに駆られた。

□フルマラソン完走者は人口の0.5%

2007年にスタートした東京マラソンがキッカケになりランニング人口は増加しフルマラソンを走るランナーも増加した。2017年4月から2018年3月にフルマラソンを完走したランナー数は約37万人(ランナーズ2018年7月号別冊付録 第14回全日本マラソンランキング)であり、10年前と比べると3倍になった。

ただ、その対象を20歳から64歳にしぼりこむと約36万人になるが、これは直近の総務省統計局発行の人口推計(平成30年10月22日発行の平成30年5月1日確定値)の同じ年齢区分の人口約7千万人と比較すると0.5%程度。人口200人あたり1人にしかいない計算になる。

それでもこのテーマを選んだ理由は、ランナーであれば少なからずランナーズハイに興味を持っているが、言葉だけが一人歩きしていると感じることがあり科学的なアプローチによって突き詰めたかった。そして何よりあの感覚をまた味わいたいと思ったからだ。

私は何度かランナーズハイを経験しているので、どのような時に発生しやすいのか私なりの仮説はある。そこに脳科学者の本田学氏の科学的見解と、ウルトラマラソンで日本代表経験のある小谷修平氏の経験を加えることにした。

<スポンサーリンク>


□脳科学者の本田学は208キロレース完走者

まず、国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 部長の本田学氏にインタビューを行った。本田氏の専門は神経科学、神経内科学、感性情報学で、脳の情報処理の側面から心の病に迫る「情報医療」の開発に取り組んでいる。そして200キロを超えるウルトラマラソンを完走している。

ランナーズハイのメカニズムとは。

ランナーズハイについて本田はこう話した。

ランナーズハイは、厳しい身体的条件で走っている時に、気分が高揚し、普段では出せないような力が出たり、本当なら辛くて仕方ないはずのことがありえないくらい楽しく感じられたり、幻覚が見えたりするような現象のことだと思います。こうした現象は、精神変容物質(覚醒剤や麻薬、脱法ドラッグなどを含むいわゆるドラッグ)に非常に近いと考えられます。おそらく、厳しい身体条件についての感覚を和らげるために、脳のなかに脳内麻薬という快感を発生させる物質が大量に放出されるために起こると考えられます。

 

そしてこう続けた。

ドラッグと同じと聞くと危険な気がしますが、実はそうではありません。快感を感じる神経回路は、脳の中に〈報酬系神経回路〉として元々インストールされており、そこに働きかける脳内麻薬は自分で生産する化学物質なので、神経に作用して快感を発生させると、即座に分解されたり再吸収されたりして副作用を発生しません。

この神経回路を脳内麻薬とは似て非なる人工的な化学物質で強制的に興奮させるのがドラッグです。脳内麻薬とドラッグの関係は、いわば鍵と偽の合い鍵のようなものです。鍵のようにはまるが、偽の合い鍵なのでうまく外れず、そのことによって深刻な副作用や常習性が発生してしまう、というように理解していただければよろしいかと思います。

言い換えると、ドラッグによって得られる快感自体は、人間は自ら作り出すことができるものであり、快感自体は決して悪いものではない。例えば、お祭りの中で演者やそれを観る人がトランス状態になって、すごい快感を感じるような現象が地球上のさまざまな文化で広く観察されます。彼らの多くは、ドラッグはもとよりアルコールすら使いません。

ランナーズハイも基本的にはそれらと同じ現象で、厳しいランニングという身体条件によって脳の中で生産された脳内麻薬が、報酬系神経回路に働きかけることによって発生する現象だと思います。

こうした快感を自力で作り出せなくなった人が、努力をせずに化学物質で安直に快感を得ようとするのがドラッグと言って良いと思います。そういう意味では、ランナーズハイは、脳の快感をつかさどる神経回路を、化学物質を使うことなく、〈運動情報〉という人類本来の方法を使って、人類本来の快感を発生させる手段の一つと言うことができるかもしれません。

 

ランナーズハイを調べると脳内麻薬、エンドルフィンといった言葉が出てくるので、心身に悪影響が起こらないか不安であったが、本田の説明を聞いて安心した。

<スポンサーリンク>


□ランナーズハイはモルヒネの30倍以上効く

 ランナーズハイは、どのような時に発生するか質問した。

ランナーズハイの発生にはさまざまな条件が関与するので一概に言えませんが、一つ大きいのは肉体的苦痛の存在です。たとえば出産のような大きな痛みが身体に加わるとき、その苦しみによって脳が壊れてしまわないように、脳は快感物質を放出することで自覚的に感じる痛みを軽減しています。

そのときに産生される物質はエンドルフィンと呼ばれる物質ですが、これはモルヒネと同じ神経回路に働きかけて鎮痛効果を発揮しモルヒネの30倍以上もよく効くのです。したがってランナーズハイは、極めて強い肉体的な負荷(疲労や眠気なども含む)が長時間続いているときに起こりやすいことは確かです。

またランナーズハイを引き起こす脳内のメカニズムが報酬系神経回路の活性化であることを考えると、報酬系神経回路を発生させ易い条件で起こりやすいだろうと予想されます。それには音や光などの視聴覚情報も関係します。例えばお祭りでトランス状態になりやすいときに使われる視聴覚情報としては、重低音や衝撃音、16ビート、ミラーボールのような目を射る光、薪のようなゆらぎをもった光などがあります。実は私が研究している人間の耳に聞こえない高い周波数の音の存在もそのうちの一つです。虫の声や自然環境音に豊富に含まれます。

また自分の中でどのようなことを考えるかというのも大きいと思います。自分がゴールする瞬間や優勝して表彰台に立つ姿など、嬉しく楽しいシーンを想像することも役立つ可能性が大きいと思います。つまり、いかに報酬系を活性化させるかが鍵になると思われます。

 

本田の話の中に興味深い一文があった。それは肉体的苦痛の存在が必要だということだ。そもそも終始調子良く走れているならランナーズハイは発生しない。私が経験したのも全て苦しんだ後だ。

ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜中編に続く

ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜中編