UTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン）回想記 その７ 〜2014年小原将寿〜
ウルトラトレイルを中心に活躍する 小原将寿 選手が、今年もフランス シャモニーで開催するUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン）にチャレンジします。初挑戦の2014年は26時間22分29秒で41位と健闘し、2015年は勝負に行きましたが、胃腸トラブルでリタイアと悔しい結果に終わりました。昨年の失敗を糧に様々な対策をたてて8月26日 18:00スタートします。
今回は、2014年のレース後に小原選手が１ヶ月かけてFacebookに書き綴った回想記を紹介します。初めてこの文章を読んだ時、行ったこともないモンブランの山々の情景が目に浮かんできました。またその時の小原選手の気持ちが伝わり自分がその場にいるようにも感じてきました。そして私もUTMBを走ってみたいと思いました。
今年UTMBを走る方や、来年以降走りたいと思っている方に紹介したいと話したところ快諾をいただきました。
私が感じた感動を可能な限り忠実にお伝えしたいので、ほぼ原文のまま紹介します。
また画像に関しましては、UMTB以外の画像も使用しています。
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僕が犯してしまった唯一のミスジャッジ
シャンペ湖のエイドを出ると、しばらく緩やかな走りやすいコースが続く。走りながら、コース図を取り出した。残り45km。山が3つ。イメージ的には、北丹のパワーアップ版という感じかな？身体は、まだ大丈夫だと思う。シャンペ湖のエイドでも、しっかりと物を食べられたし。当然疲れはあるけど、実際にまだ走れているわけだし。ここから、ゴールまでの設定タイムは8時間。今年の北丹が、相当潰れて5時間くらいだったことを考えると・・・。イケるでしょ。今の状態なら、むしろ7時間切るくらいでイケるんじゃないの？
このシャンペ湖まで、ほぼ事前にシミュレーションしていた通りに来ていた。走ったことはおろか、見たことすらないコースを勝手に想像して設定したタイムが、ここまで20分の誤差しかなかった。ここまで、そのような走りが出来ていたことに、ちょっと浮かれてしまっていたのだと思う。今回のUTMB全体を通しての作戦は、“命を大事に”のはずだったのに、いつの間にか“ガンガン行こうぜ”に、作戦を変更してしまった。
ここで、僕は一つの選択をした。これが、恐らく今回のレースにおいて僕が犯してしまった唯一のミスジャッジ。
“ここから、ストックを使わずに走ろう”
この選択には、僕なりの考えがあった。シャンペ湖までの120kmを走って来て、現時点で自分が海外選手に大きく負けていると感じた部分が、登りの時の“歩きのスピード”だった。急勾配を登っていくときの海外選手のストックを使った歩きの速さに、全くついて行けなかった。ただし、僕がその急勾配を走りさえすれば、走りと歩きならば、当然僕の走りの方が速い。ストックを使って歩くのは分が悪いけど、登りを走りさえすればなんとかなる。
そして、シャンペ湖で、自分の順位を初めて見てしまったこと。相当遠くの目標だと思っていた20位台が、それほど遠くないと思ってしまったこと。タイムではなく、順位を意識してしまったこと。この時、僕はどこかの誰かに勝つために、走ることを選択した。周りのことなど気にせずに、決めたタイム通りに走りさえすればいいのに。
結果的に、僕はこの後潰れることになるのだから、この選択は誤っていたのだと思う。それでも、あの時、あの場所で。17時間以上、120km以上走った状態で、自分で考えて選んだことなのだから。悔いがないと言えば嘘になるけど。この経験が、自分を高みに連れて行ってくれるはずだと。ポジティブな面に目を向けたいと思う。
と言うことで、走った。最初の山の登りを、走った。ストックを使って歩いているランナーを捕え、そして抜かした。・・・35位。
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走って、走って、走った。そして、潰れた・・・。
もう少し。もう少し。走った。走って、走って、走った。そして、潰れた・・・。
最初に気が付いたのは、頭がやたら熱くなっているってことだった。時刻は12時を回り、太陽が真上から照らしている。決して気温は高くないが、標高が高いからか日差しがもの凄く強く感じる。小さな沢を見つけて、頭に水をかぶる。・・・ふぅ～。よし、行くか。っと、再び走った。ちゃんと、自分の状態を観ることが出来ていなかった。
そのまま走り続けた結果、脚は山頂を目前にして走ることを放棄した。歩くことしか出来なくなった。そして、歩き出して分かった。
・・・オレ、フラフラになっちゃってる。
それに気が付いた途端、今まで溜りに溜った疲労の塊みたいなものが、一気に全身に広がっていくように、身体が動かなくなった。歩き通してやっと山頂に辿り着き、平坦な道に出たのに、脚が走ってくれない。それどころか、何もない平らな道を歩いているだけなのに、つまずいてしまう。今まで感じなかったバックパックやらウエストバックが、やたら重く感じ始めていた。最初から、バックパックって、こんなに重かったっけ？何がこんなに入っているんだっけ？こんなに暑いんだから、防水パンツとか長袖とか、絶対いらんし・・・あっ。ストック持ってるんだった。
バックパックからストックを取ろうと、立ち止まって、バックパックを背中から下ろす。当たり前のことのように、そのまま道の脇に腰を下ろしてしまう。座るつもりなど、なかったのに。でも、気持ちとは裏腹に、身体が立ち上がることを拒絶する。座りながら、足元を見てみると、視界の端がチカチカしていることに気が付く。顔を上げると、頭がふら～っとする。・・・まずいな、これは。
山頂は、牧草地のようになっていて、木などは一切生えておらず、日差しを遮るものは何もない。降り注ぐ日差しが、頭をドンドン熱くする。・・・ダメだ。ここに座っているだけで、体力が削られてしまう。意を決して立ち上がろうとした時に、後ろから3人のランナーさんが走ってきた。先頭は、女性のランナー。今年のUTMFで子供の国を出た辺りで一緒に走った、すっごい辛そうな息遣いをしているのに、走り続けるランナーさんだ。
彼女たちが、僕を抜かしていく時に「グッドラック」と声をかけてくれる。僕も言葉を返そうとしたけど、秋の終わりのムシの声くらいの音が口から洩れただけだった。
Good Luck・・・か。3人の背中を見送ってから、ストックを地面に指して立ち上がる。立ち上がると、熱がある時にみたいに頭がクラクラする。エネルギー不足かも？そう思い、ジェルを飲み込む。続けてワッフルを口に含む。・・・飲み込めない。吐き気はないけど、いくら噛んでも喉に落ちて行かない。
