男性ランナーも貧血にご注意を(ドクターランナーからのアドバイスを追記)

 

ウルトラランナー

チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン5LAKESの部(118㎞)で優勝した楠瀬祐子選手も、年末から貧血になり苦しい時期を過ごしましたが、私の周りには貧血経験のある女性ランナーはたくさんいます。

ただ、貧血は女性ランナーだけに発生する出来事ではなく、男性ランナーにも突然訪れる厄介なトラブルです。

最近まで普通に走れていたペースで走れなくなったことに対し、練習が足りない。根性がないと、さらに自分を追い込み練習したことから悪化し、日常生活にも支障が出る状態になってしまいます。

今回は、ウルトラプロジェクトメンバーのKさんのご協力を得て、過去貧血に至った経験について語ってもらいました。


(追記)今回の記事を読んでいただいた上で、2名のドクターランナーに医学的見地からのアドバイスをいただきましたので追記します。

主にアドバイスをいただいたのは内科医の佐藤恵里さんです。お忙しい中ありがとうございます。また整形外科医の諏訪さんは、ご自身が貧血経験があるので、どのように克服しているかのアドバイスをいただきました。お二人ともご多忙のなかありがとうございます。

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貧血になった原因

 

ウルトラランナー

貧血は体の弱い子が患う病気だと思っていた

自分が「貧血」を初めて認識したのは6〜7年前。「貧血」なんて、小学生のころ、朝礼でパタリと倒れる、体の弱い子だけが患う病気だと思っていました。それが何十年も経て、自分の身に襲いかかるとは…。

このころはまったく自己流の練習、帰宅ランが主でした。徹夜の仕事が終わった後に、無睡で朝食も取らずにラン二ングをスタートしました。毎回10〜15kmぐらいを走っていました。

食事抜きで走るものですから、どんどん痩せていきます。トレーニング直後に栄養補給する知識もなく、終わって炭酸飲料をラッパ飲みして終了。体重はみるみる軽くなっていきました。

体重が減ると速く走れるようになった

「痩せる→軽い→これまでにないスピードで走れる」

このサイクルに気をよくして、変な方向で追い込み始め、楽しくてしようがなくなりました。春から夏の3カ月ぐらいで体重はみるみる落ちて、最終的には中学3年時の体重(54kg)になっていました。アラフォー(当時)にしては、ちょっと異常です。(Kさんの身長は178cm)

これなら秋の大会で大幅記録更新ができるぞ!と胸をふくらませる毎日。

急に走れなくなった

それが一転…

急に足が動かなくなりました。前ぶれもなくやってきました。5kmが走れなくなり、しまいには息切れがひどく、7分/kmペースでたった1kmも走れなくなってしまいました。

疲れかな?と、3日休み、1週間休み、10日休み走ってみるも、一向に改善せず。原因がわからなかったため、走れないのは根性がないだけ!、とただただ無為に自分を責めていました。走ることが楽しくてしようがなかったのが一転、走ることが地獄以外の何物でもなくなりました。

カラダがもう限界だったのですね。10日も走らず、まったく足に疲労がないはずなのに、寝ている最中にふくらはぎが攣る始末。原因不明のカラダの不調を嘆き、暗たんたる日々を過ごしていました。


佐藤恵里医師からのアドバイス 『倒れたりしないから貧血ではないは誤り、めまいがするから貧血も誤り』

〜朝礼でパタリと倒れる、身体の弱い子がなる病気〜 大半の方は、これを貧血の症状だと思っていますが、これは全く別の病態で、”血管迷走神経反射”といいます。

貧血の症状はKさんが後述されたように、パフォーマンスが上がらない、なんとなく疲れが取れない、という形で現れます。徐々に進行した貧血では症状が現れないことも多いです。

ただ、私は倒れたりしないから貧血ではない、という思い込みがある方は多いので、今回の記事を読んで気がつくことも多いでしょう。非常に意義のある記事です。

逆に「めまいがしたから貧血です、検査してください」と言って来院される患者さんも大変多いですが、めまいは貧血の症状ではないことが殆どです。血管迷走神経反射もランナーが時に起こすことのある病態です。脱水や疲労がある時、速いスピードで走って止まった直後にクラッと来るのはこれを疑います。安静で回復します。

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貧血発覚〜回復

 

ウルトラランナー

貧血というワードを認知した

ある時、風邪か何か別件で内科を受診したところ、顔色が黄色い、おかしいと診断され緊急採血。ここで女子よりも悪い極度の貧血が発覚。原因として考えてもみなかった「貧血」というワードを初めて認知しました。

医者の診断では十二指腸潰瘍などによる下血が疑われるということで、胃カメラを飲むことに。結果は異常なし。原因不明だけれど「貧血」ということで鉄剤を処方され、息切れや走れない症状は、ゆっくりですが回復していきました。

スポーツ貧血

その後、ネットで調べたところ、「スポーツ貧血」なるものを初めて知りました。足裏の衝撃による溶血、発汗による鉄分の流出、貯蔵鉄の枯渇…。

自分が受けた町医者もそうですが、なかなかスポーツと貧血の因果関係を理解して、アドバイスをくださる医者は少ないです。(いまはわざわざ1時間以上もかかる、自身ランナーでもある医者に通っています)

レバーやひじきなどでは十分ではない

「貧血」は男子でもなります。死ぬほどツラいです。残念ながら、鉄分は吸収率がかなり悪いので、レバーやひじきなど、貧血によいとされる食物を積極的に摂っていても、充分でない場合があります。

急な不調は貧血を疑え

長距離を走って、余裕のあるペースから急激に失速した経験のある方。走力、筋力不足とだけ考えていませんか?ひょっとしたら、貧血の可能性があるかもしれません。調べてみる価値ありです。思わぬ角度から、走力アップが図れるかもしれませんよ

佐藤恵里医師からのアドバイス『男性の貧血は消化管出血が多い』

”十二指腸潰瘍などによる下血が疑われた”

女性の貧血はランナーでなくても非常に多いですが、30〜40代男性の貧血は多くありません。貧血になる原因として一般的に最も多いのが消化管出血です。ランナーにも胃腸障害は多く、レースなどのストレスにより、”急性胃粘膜障害”になって出血しているケースも考えられます。

中等症以上の貧血を初診で見た場合、特に男性にはたとえランナーであっても内視鏡を勧めるのは正しいです。消化管出血が否定された後、記事に記載頂いたようなスポーツ貧血を診断します。女性の場合は過多月経が原因として多いので、子宮筋腫や内膜症の有無を確認します。

(追記)貧血は繰り返す

 

ウルトラランナー

貧血は治ったと思っても繰り返し襲ってくるようです。

Kさんから続報をいただいたので、追記します。

『貧血が発覚してからは、食事と薬、サプリに気をつけました。食事は夜勤時に毎回、レバーとひじきを食べていました。医師の処方が必要な鉄剤が切れてからは、市販の増血剤を服用しました。サプリメントは吸収率が高いヘム鉄を使いました。こうしていれば問題ないだろうと、ヘンな自信を持っていたのですが、採血しなければ確認できないため、「いつの間にか貧血」にたびたび襲われます。おととしハセツネを1周全部走る練習イベントに参加した時です。第一関門まで気持ちよく走りましたが、以降、急激にペースダウン。一緒に走る方々を待たせる始末。トレイルでこんなことは初めてでした。ハセツネ最高峰の三頭山の手前で両太ももが攣り、みなさんにご迷惑がかかるので、都民の森で下山しました。走力のなさを嘆きましたが、この時もどうやら貧血が一因になっていたようだと後で気づきました。貧血だと酸素が筋肉に充分に送られないのです。攣ったことのない太ももを攣るとは驚きました。山ですから非常に危険です。自力で下山する力をなくしてしまったらアウトです。そこから2カ月後の本番までは貧血対策に気を使って、無事完走できました。
しかし、薬やサプリメントに頼ると、人間本来の造血機能を低下させると聞きます。私は仕方ないので飲んでしまいますが、本当は飲まない方が良いのです。現在も完全な解決方法が見つからず、病院に通って定期的に検査し、悪化しないよう注意していますが、これからも勉強しながら改善できるよう模索していきます。』

佐藤恵里医師からのアドバイス『内服の鉄剤で造血機能は低下しない』

”薬やサプリメントに頼ると人間本来の造血機能を低下させる” 鉄に関してはそんなことはないです。内服の鉄剤で造血機能は低下しません。安心して内服してください。

しかし、鉄剤を内服すると、量にもよりますが副作用が出ることがあります。嘔気、下痢、便秘などが多いです。 内服鉄剤が飲めない場合、医学的に必要があれば”静脈注射”を行うこともあり得ますがキチンと量を守らないと過剰鉄が臓器に沈着することがあり、個人的にはスポーツ貧血に対して使用することはあまり勧められません。

内科医からのアドバイス『鉄だけではなくタンパク質の摂取を』

大事なのは、鉄だけでなく充分量のタンパク質を摂取することです。赤血球成分のヘモグロビンは鉄だけでなくタンパク質でできています。特にスポーツ貧血の改善にはタンパク質を同時に摂取した方が改善が早いということもわかっています。

おすすめの食材は赤身の牛肉、マグロ、カツオなど。植物からの鉄(ヒジキやほうれん草)は含有量が少なく、吸収率も低いです。


タンパク質と貧血に関しては以下のサイトがよくまとまっています。

たんぱく質不足に要注意 貧血


佐藤恵里医師からのアドバイス『鉄の吸収率アップにはビタミンCを併用』

また、鉄だけ摂取しても吸収率が悪いのでビタミンCを併用すると吸収率が高まり、また鉄剤の副作用による嘔気を軽減する効果もあり、同時に処方することもあります。食べ物からは柑橘類や苺などの摂取がいいでしょう。

(追記)ドクターランナー諏訪選手からのアドバイス

アスリチューンサポートランナー

野辺山ウルトラマラソン42キロ 2位に入ったドクターランナーの諏訪選手も貧血です。

医師であり、エリートランナーである諏訪選手に貧血についてアドバイスをいただきました。

不振の原因の1つに貧血があることを頭にいれておく

『私はランニングドクターとしてマラソンと貧血が密接に関係していることは知っていましたので、疲労が抜けているのにパフォーマンスが上がらなかった時に採血をし、貧血だということが分かりました。
ヘム鉄のサプリメントも市販されていますが、吸収効率を考えるとやはり病院で処方される鉄剤がいいと思います。私は3ヶ月しっかり飲み、症状が改善した今も維持量を飲み続けています。その理由は今回の記事にもありますが、繰り返しやすい再発すると回復までに時間がかかるこれから迎える夏場は特に走り込みによる足底衝撃での溶血が増えるということです。』

『そして、マラソンランナーの不振の原因の1つに貧血があるということを頭に入れておくことは重要です。スポーツドクターが近くにいればいいですが、いないときには自分から進んで採血をしてもらいましょう!』

本サイトより

 

ウルトラランナー

栄養学的な視点からの記事は別に書いていますので、少し違う視点から貧血リスクの高いランナーの特徴を上げてみると、走った距離は裏切らないという気持ちを持ち一生懸命練習する人、思うように走れないと根性が足りないと自分を責める人、体重が落ちれば速くなれると考えている人、夜勤など生活リズムが不規則になりやすい人、体力に自信のある人などだと思います。特に急激に練習量を増やすと貧血リスクは急上昇します。

月間走行距離150キロで2時間30分をキープするランナーで紹介しましたが、どれだけ走行距離を増やすかを考えるのではなく、目標達成のためにはどんな練習が必要かを考えることが大事です。前回インタビューをさせていただいた女性ランナーも、走行距離を落としましたが、目標達成にはどのような練習が必要かを考え練習を変えたことで、貧血も克服し自己ベストを更新し、来シーズンはさらなる飛躍を目指しています。

私自身、貧血ではありませんが女性並みに数値が悪いので、練習量は増やさずに効率的な練習を模索してます。楽しいはずのランニングをするのが嫌になるような状態は、不幸以外の何物でもありません。

もし周りで最近調子が悪そうな友人がいたら、男女問わず、この記事を読んでもらってください。一度貧血になってしまうと回復には最低3ヶ月はかかると言われています。いま貧血と分かり治療を開始したなら、秋のシーズンには回復し、気持ちよく走れるようになれるかもしれません。

また、Kさんの貧血発覚時に”十二指腸潰瘍などによる下血が疑われた”とありますが、一般に男性の貧血は毎日少量づつの下血により徐々に貧血になることが多いようです。その場合、貧血どころか大きな病気の可能性もありますので、体調不良が続くようであれば病院で検査を受けるべきでしょう。

練習量を増やした時期だから疲労が溜まっていても仕方がないと、身体から発せられたSOSのサインを見落とすことがないようにしてください。

 

ウルトラランナー

追記したように、貧血は治ったと思っても何度も襲ってくるようです。前回紹介した楠瀬さんも昨年末の貧血は2回目ですが、違う症状なので、貧血ではないと考えてしまったと話していました。貧血になれば治療のために鉄剤などの薬を飲みますが、薬には効果とともに副作用もあります。繰り返しになりますが悪化させないよう早期に気づき、そのような状態になっている原因を把握し改善することが大事です。


Kさんは、ウルトラプロジェクト入会後、練習量は減っていますが、フルマラソンや30キロなどで自己ベストを出しています。走力アップは質と量で決まるので、練習量を増やせるのであれば増やしたほうが目標達成に近づくかもしれません。しかし、薬に副作用というリスクがあるのと同じように、練習にもリスクがあります。そこでKさんは効率的な練習に切り替えています。

本サイトでは、ランナーに襲いかかる様々なリスクについて紹介することで、未然防止に繋がるよう今後も情報提供を続けていきます。

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