前話はこのように終わった。
また自分の中でどのようなことを考えるかというのも大きいと思います。自分がゴールする瞬間や優勝して表彰台に立つ姿など、嬉しく楽しいシーンを想像することも役立つ可能性が大きいと思います。つまり、いかに報酬系を活性化させるかが鍵になると思われます。
本田の話の中に興味深い一文があった。それは肉体的苦痛の存在が必要だということだ。そもそも終始調子良く走れているならランナーズハイは発生しない。私が経験したのも全て苦しんだ後だ。
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□東大卒のウルトラマラソン日本代表
次に24時間走世界選手権日本代表経験のある小谷修平氏にインタビューを行った。
ランナーの学歴は高いと言われているが、小谷もその例外ではない。小谷は東京大学工学部卒業後、修士課程を修了した。現在はランナー向けの商品を販売する会社を経営している。
まずウルトラマラソンを始めたきっかけを聞いた。
私は高校までは勉強して真面目に過ごし良い学校に入れば人生は成功すると思っていた。それが東大に入ったら勉強ができるのは当たり前で、何か抜き出た部分がないと埋もれてしまい、周りから評価されないと感じ始めた。
当たり前のことだが気づくのが遅かった。自分がどんな人間なのか見つけることができず苦しんでいた時に出会ったのがウルトラマラソンだった。頑張れば何かを与えてくれると思い一心不乱に走り続け、目標にしていた日本代表になることができた。
□神宮外苑を24時間走る大会
小谷に以前から聞きたいことがあった。それは私も出場した2016年12月開催の神宮外苑24時間チャレンジのことだ。
その大会は翌年の世界選手権日本代表選考会であり強い選手が集まる。24時間走にはゴールテープはない。当たり前だが10キロの大会なら10キロ先にゴールがあり、100キロの大会なら100キロ先にゴールがあるが、この大会のゴールはスタートから24時間後だ。1周約1325メートルの周回コースをどれだけ走ったかを競う競技だ。
上位争いに絡まない私も常に上位選手の走りを見ながら走る。通常の大会であれば折り返しがない限り、スタート後に上位選手の走りを見ることはできないが、この大会はその一部始終をコース上にいる選手が共有する。上位選手であっても苦しい場面では、数十キロ後ろを走る選手に何回も抜かれる。この大会で小谷は倒れるのではないかという状態で走り続け3位に入り日本代表に選出された。
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□ライバルがいたから走り続けることができた
この時のことを小谷はこう話した。
多くの人間は常に不安を作り出す。この時の小谷の不安はいつ後続選手に抜かれるかであった。意識は自分の後ろにあったのだ。
その小谷に変化が起こったのは、日本代表の楢木十士郎選手に抜かれた時だった。何度も死力を尽くし競い合った、絶対に負けたくないライバルが、小谷の前に出た直後に、「負けてたまるか!」とペースを上げた。そこから二人は24時間経過するまでお互いずっと見える範囲で走っていたという。
小谷はこう振り返った。
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□誰かのためにという気持ちが限界を超えて走らせてくれる
楢木選手だけには負けたくないと話す理由について小谷はこう話した。
苦しい状態からスイッチが入り、心地よくどこまでも走れるようになるのが一般に言われているランナーズハイであるが、2016年の小谷は通常であれば動くこともできない疲弊しきった身体で最後まで走り続けた。小谷も一種のランナーズハイ状態だったと話している。
この時の記録は248キロで同年の世界ランキング15位。これは東京駅から浜松駅の距離を超える。浜松町ではない。
□ランナーズハイを意図的に起こすための10のヒント
ランナーズハイは最初から最後まで気持ちよく走れていれば・・・
ランナーズハイは意図的におこせるのか?〜脳科学とウルトラマラソンからのアプローチ〜後編に続く