あのキリアン・ジョルネが24時間走世界記録にチャレンジするというニュースリリースがアメア スポーツ ジャパン株式会社から届いたので紹介します。
もちろん私が紹介するので、ニュースリリースをそのまま紹介するだけなんてことはしません。ニュースリリースを引用しながら24時間走について知らない方にも分かりやすいように紹介していきます。
<スポンサーリンク>トレイルランニングおよびウィンタースポーツ用品において世界をリードするサロモンは、多様化するロードランニング市場のニーズに適う、サロモンならではのロードレーシングシューズの開発を進めてきました。今回その性能を実証すべく、2021年春のローンチに先駆けて、開発を共に歩んできたトレイルランニング史上最も優れたランナーであり、1週間に2度のエベレスト登頂も果たした偉大な山岳アスリートKilian Jornet(キリアン・ジョルネ)による新たなプロジェクト、Phantasm 24 (ファンタズム24)が敢行されることをここにご報告させていただきます。
今回のチャレンジは自身初のオンロード企画。シューズも新たに2021年春発売予定のサロモン初のロードレース対応モデルS/LAB Phantasmを履いて、ノルウェーのマンダレンにあるスタジアムの400mトラックを24時間走り続け、最長走行距離世界記録更新を目指します。
「高地でのクライミングであれ、平地でのランニングであれ、フィールドで新たなことを試み、自分に何ができるのかを知りたいと常に考えています。自分の新たな可能性を発見するのは楽しく、今回のオンロード企画は栄養学やランニングペースを学ぶ上で良い機会であり、今後の活動に必ず役立つものであります。」(キリアン・ジョルネ)
<スポンサーリンク>プロジェクト名
PHANTASM 24(ファンタズム24)
プロジェクトの実施日
2020年11月21日~22日の二日間を予定。(時間未定)
※天候により、変更される可能性がございます。詳細情報はサロモンHP、サロモン及びキリアン自身のSNSにて更新されます。
キリアンが目指す“24時間最長走行距離”
“走る神”とも呼ばれるギリシャのウルトラランナーYiannis Kouros (ヤニス・クーロス)が1997年に樹立した303.506km
※感染症予防の観点からスタジアムを閉鎖し、記録を公式なものとする為にトップウルトラランナーとのレース形式にて実施。
「到達距離をイメージするのが難しいチャレンジですが、ヤニスのペースを参考に、それに近づけていきたいと考えています。1 時間毎に維持しなければならないスピードとペースは頭にあって、最初の10 時間は少し速くなり、その後徐々に落ちてくるはずなので、1 時間毎に立てた計画が実行できて、身体的なトラブルや補給によるタイムロスが無ければ記録は更新できるはずです。」(キリアン)
今回、プロジェクトを実施するに当たっては数か月前から準備が進められてきましたが、キリアン自身、具体的な距離設定は考えておらず、シューズを履いてスタートを切った瞬間から“並外れた”記録に向かって走り続けることになります。
UTMB、ハードロック100、ウエスタンステイツ100 と数々の戦績を残してきたキリアンは、このプロジェクトに向けてコーチやフィジカルトレーナーと共に新たなトレーニングにも取り組んできました。
「山岳アスリートは身体に積んでいるモーターが大きいので有酸素運動や持久走には有利ですが、私の足はこれほど速く動かすことに慣れていないので、毎週3 日間トラックやオンロードでのスピードワークに取り組んできました。地形の変化に応じたステップワークを行うトレイルランニングと違い、フラットな路面を走る為のフォームを身に着けることも必要でした。」(キリアン)
トレーニングでは、不慣れなランニングフォームによる怪我のリスクを最小限に抑えることも目的としていました。10 月中旬には10000m 走レースに出場し29 分59 秒と好記録を残しました。
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今回キリアンは、サロモンが2021 年春に満を持して発表する初のロードレーシングモデル「S/LAB Phantasm」を履いてプロジェクトに挑みます。トレーニングでも一貫してこのシューズを履いて取り組んできました。
「1 年前からプロトタイプをテストしてきましたが、今は春に一般発売されるものと同じシューズを使っています。印象としては非常に軽く、クッション性のバランスが最適で自然と足の回転数を高めてくれるイメージです。これは硬く平らな路面を長時間走る上では非常に重要で、怪我のリスク軽減にも繋がります。そして濡れた状態でもグリップが本当に良いです。これもペースを上げるには重要です。サロモンが我々アスリートと共に新たな製品を生み出す過程は本当に素晴らしく、この「S/LAB Phantasm」には山から学んだ技術に、ロードランニングならではの要素を加えてもらいました。そしてこの新たな要素が山岳アクティビティー製品の向上にも活かされるという良い循環が生み出されています。」(キリアン)
トレイルランニング史上最も優れたランナーキリアンがランニング界に新たな歴史を刻む準備は万端です。
ヤニス・クーロスとは?
まず、24時間走世界記録303.506kmを出したヤニス・クーロスは伝説のウルトラランナーです。その記録がどれだけ凄いかというと2019年の24時間走世界ランキングと比較するとよく分かります。こちらは上位5名の記録で、1位は今や世界一のウルトラランナーである石川佳彦が過去5年間で世界最長距離(世界歴代4位)を走った記録です。その記録より24km長く走っているのです。
DUVウルトラマラソン統計より
- 279.427km Ishikawa, Yoshihiko(JPN)
- 278.972km Sorokin, Aleksandr(LTU)
- 276.221km Bodis, Tamas(HUN)
- 275.485km Leblond, Olivier(USA)
- 274.332km Penalba Lopez, Ivan(ESP)
ヤニス・クーロスの凄いのは、その303.506kmという抜き出た世界記録だけではなく、280km以上の記録を12回出していることです。それも28才だった1984年に初めて280kmオーバーの284.853kmを出し、最後に280kmオーバーしたのが18年後の2002年(46才の時)に284.070kmを出すなど非常に長期間に渡ってウルトラマラソンのトップに君臨していたのです。
歴代で280kmを超えたランナーはクーロス以外には2014年に285.366kmを走った原良和ともう一人だけです。それを一人で12回達成しているということがどれだけ凄いか分かると思います。
世界記録を出したのは1997年と既に23年前のことです。フルマラソンの当時の世界記録はデンシモ(エチオピア)が1988年に出した2時間6分50秒でしたが、現在はエリウド・キプチョゲ(ケニア)の2時間1分39秒と約4%タイムが短縮されました。他の種目も同様に記録は伸びていますが24時間走に関しては、クーロスの記録が今でも抜きんでているのです。
ちなみに48時間走でもクーロスは473.495kmの世界記録を持ち、6日間走では1036.800kmの世界記録を持ちます。6日間走はちょっとイメージが沸かないと思います。
24時間で303.506km走るには、平均12.65km/hです。ペースにするとおよそ4’45/kmです。これってフルマラソンを3時間20分で走るペースで7回以上走り続けると達成できる記録です。
今回キリアンはこの記録に挑戦するのです。
キリアンは山岳レースで圧倒的な強さを誇るアスリートですが、そのアスリートが全く凹凸がないフラットなコースで世界記録を目指すというのも凄いことだと思いますが、ニュースリリースを見るとフラットなコースに対応するためにフォーム改造を行い10000mを29分59秒で走るまでに仕上げたのだからこのチャレンジへの本気度が伝わってきます。
キリアンのペースは?
さて、キリアンは最初の10時間は少し速くなり、そこから徐々に落ちていくペースで走ると話していますが、具体的にどのようなペースを考えているのか想像してみます。
以前24時間走のペース配分について記事を書きましたが、すぐに見つからないので記憶で書くと、前半12時間と後半12時間に分けて、さらにそれを6時間づつに分けて考えるウルトラランナーは少なくないように感じています。ちょうど日本代表経験のある小谷さんとオンラインで話していて260km走るなら前半12時間はどのくらいを目標にするかと聞くと、ほぼ私と同じ感覚で137kmでした。すると後半12時間は123kmになり前半53%、後半47%になります。キリアンは初めての24時間走へのチャレンジなので前半をもう少し速めに入るかもしれませんがその辺りの数値で計算するとこのようになります。
目標を304kmにして前半12時間で53%走ると161kmで、55%走ると167kmになります。ちなみに12時間走の世界記録は2019年にBitter, Zach(USA)が出した168.792kmです。
前半161kmであれば4’28/kmペースで、前半167kmであれば4’19/kmペースです。キリアンは最初の10時間を少し速めとしているので、おそらく最初の10時間を4’20/kmペースで走り138kmまで到達し、残りの14時間で166kmを走れば世界記録になります。14時間で166km走るには平均して1時間に11.86kmになるので10時間以降4’30/km、4’40/km・・・と少しづつ落としながら、終盤でも1時間に最低でも11km(5’27/km)以上走るといった戦略の気がします。
この辺りはいずれ明らかになると思います。
男女差は1.1倍
また、短距離でも長距離でも男女差は1.1倍だという記事を以前書きました。これは世界記録も、日本記録も同様です。
昨年の24時間走世界選手権で女子選手が初めて270kmオーバーをしました。クーロスの記録とこの記録を比較すると1.12倍なので上記で書いた記事の数値と一致します。クーロスは伝説のランナーですが女子選手においては、クーロスに匹敵する選手が現れてきたのです。
S/LAB Phantasm
私の勘違いでなければ履いたことはありませんが、手に取ったことはあります。非常にバランスの良いフィット感の良さそうなシューズでした。距離に関わらずシューズがランニングのパフォーマンスアップに与える影響は大きいです。先ほど紹介した女子で初めて270kmを超えたHERRON Camilleはナイキヴェイパーフライネクスト%を履いていました。S/LAB Phantasmについて履く機会があれば紹介したいと思います。
キリアンが24時間走にチャレンジする意味
最後に、今回世界的なトレイルランナーであるキリアンが専門外の24時間走にチャレンジすることで、24時間走に注目が当たることは良いことだと思っています。日本は伝統的に24時間走や100kmなど世界レベルにありますし、24時間走世界選手権で複数の選手が優勝しています。今回のキリアンのチャレンジにより300kmオーバーの世界が現実的に見えてくれば、そこを目指してチャレンジする選手も現れてきます。
また続報を書きたいと思います。
余談ですが、最近ではこのようなドリンクを胸に入れるベストタイプのトレランザックは一般的になりましたが、私が第1回UTMFに出た2012年頃から脚光を浴び始めたモデルです。当時はキリアンザックと言っていたように記憶してます。