
以前、ランニング中の事故で、もし1億円賠償請求されたら・・・。という記事を書きました。
実際のところ、どのくらいの賠償請求額になるかは、被害者の収入や年齢、そしてケガの程度や、双方の注意義務などによる過失により決まってくるので、1億円支払わなければならないような事故は滅多に起こらないでしょうし、損害保険会社で25年勤務しましたが、ランニング含めてスポーツ中の接触事故などでこのような支払いが生じたという話は聞いたこともありません。
ただ、数百万単位の賠償事故事例はある程度発生しています。
つい最近の読売新聞のウェブニュースにこのような記事がありました。
歩行者同士が衝突、ぶつかった女子中学生に790万円支払い命令…大分地裁
2017年の事故ですが裁判所から判決が出たという内容です。
ポイントだけ書きます。
判決内容
歩道で歩いていた中学生(以下加害者)と80歳代の女性(以下被害者)がぶつかり、被害者が転倒し後遺障害が残ったとして約1,150万円の賠償請求請求を行っていた訴訟で、加害者に歩行者の安全に留意する義務を怠った過失があったとして裁判所は約790万円の支払いを命じた。
事故状況
加害者は、通学中に前を歩く4人の生徒を追い抜こうとした時に、前方から歩いてきた被害者とぶつかり転倒し、腰の骨を折り、腰を曲げにくいという後遺障害を負った。
加害者側主張
「普通の速さで歩いていた」ので無過失を主張
裁判官判断
歩道は幅2.2メートルと狭く、歩行者同士が衝突する危険があったので、加害者は追い抜く時には安全に十分留意する義務があり、それを怠った過失がある。
賠償額を7割に減額した理由は、骨折は骨粗鬆症の影響があるとしたため。
今後の対応
加害者側代理人弁護士は、今後の対応を協議する。としているので、控訴して係争が続く可能性もある。
ごく普通の日常生活の行動で賠償790万円!
この事例は歩行者同士の衝突であり、加害者の中学生はとんでもないスピードで走っていたわけでもなく、普通に歩いていてぶつかったわけです。また2.2mの歩道って決して狭いわけでもありません。この状況でこの判決が出たのです。
そして、このような日常よくある状況で1,000万円以上の賠償請求をされたのです。(判決は約790万円)
事故を防ぐにはリスクの認識と想像力
我々ランナーがこのような状況の中、走ることは日常的にあると思いますが、気をつけていても避けられないような事故はあるにしても、大半の事故は防ぐことができます。
そのために大事なことは何かを考えると、危険(リスク)の認識です。そして認識したら、どうしたらそれを避けることができるかを考えることです。
これはランナーに限らず、歩行者でも自転車でも、このような行動をしたらこのような結果になるかもしれないという想像力が欠如しているかのような行為を目にします。急いでいるのは分かるけど駅の階段を猛スピードでかけ降りてくる人とか、下りエスカレーターで、キャスターから手を離してスマホ操作をしていて落としてしまう方とか驚きます。
ランニング中に、ランナー同士、歩行者や自転車と接触すれば、自分がケガをするかもしれないし、相手にケガをさせるかもしれません。どちらが悪いとかいう以前にそれは不幸な出来事です。
そんなこともあり、25年間リスクマネジメントの世界で仕事をしてきた経験を活かしてランニング危険予測トレーニングと言ったコンテンツを作り発信してきました。

これは、そのコンテンツで使った題材の一部ですが、前方に写っている家族連れの横の狭いスペースに結構なスピード感で入っていくのは想像力の欠如と考えます。
この場面なら、そもそも歩道が狭く、歩行者と十分な間隔をとることはできないのだから、まずはスピードを十分に緩めて、歩行者が動いても止まれるくらいのスピードで抜くことが求められます。私は状況により、しばらく間隔をあけて後ろについて歩いて広い箇所で抜きます。
ランニングのペースを守るより安全を守ることが大事なのです。

こちらは皇居の桜田門ですが、この画像の門の先を右へ直角に曲がるような道になっています。
門の右側ギリギリを走るランナーがいますが、この角度で門の中に入ると右側の見えない箇所から自転車やランナー、歩行者がくると避けることができない場合があります。そのような想像力が働くなら、そのようなコース取りはしないで、左側を走る自転車の位置から入って見通しを確保します。
仮にこの状況で門の陰を歩いてきた歩行者とぶつかりケガをさせたら、冒頭紹介したような損害賠償請求をされることだってあるのです。
上記2例のような走り方をしても必ず事故がおこる訳ではありませんが、このような行動を続けていたらかなりの確率で接触事故を起こすし、小さな接触事故を起こしても反省しないで繰り返したら重大な事故を起こすでしょう。
また、このような分かりやすい事例だけではなく、前を歩いている人が急に横に動いたり止まったりすることだってあります。
もちろん急に動かなければ事故は起きなかったと主張することは出来ますが、仮に双方5割づつ過失があったとして、相手側が後遺障害など負ったなら、その遺失利益などの半分を負担するような事態にもなります。
可能性とか考えていたら何もできない。
と言う方はいますし、私も万が一のことを考えすぎたら何もできないと思っています。
大事なことは、その万が一が発生する確率と、起こってしまった時のダメージの大きさを把握して備えることです。
まず、避けることができる事故は可能な限り避けるための行動をとる。これはランニング中だけではありません。それでも避けられない事故はあるし、誰しも不注意な時もあるのだから、万が一に備えて賠償責任保険(特約)に入ることも大事なリスクマネジメントです。
個人賠償保険(特約)に入っているか確認
自分や家族が自動車保険や火災保険に入っているなら、既にその特約に加入しているかもしれません。私は自動車保険の特約で加入しています。
また、賃貸マンションなど借りているなら賃貸契約時に不動産業者から、水漏れなどで階下の部屋に損害を与えた時などに対応する保険として説明されて加入しているかもしれません。
現在ご加入の保険商品で賠償責任に対応できているかどうか、追加は可能なのかどうかは、ご契約の保険会社や代理店に確認してみてください。
そのような保険は全く入っていない。そもそも保険は生命保険やガン保険くらいしか入っていないという方は、傷害保険と賠償責任保険がセットになった保険を損害保険各社で取り扱いをしているので、知り合いの保険代理店や保険会社のコールセンターに確認してみてください。
またネットで申込できる保険商品も増えているので検索すれば色々出てきます。
こちらは先日、私の過去の損害保険会社でのキャリアと、ランナーとしてのキャリアから、ランナー向けの保険について相談をいただいた会社の保険です。
東急グループの東急少額短期保険株式会社が販売するこのランナー保険のことは、その打ち合わせで初めて知りました。こちらのランナー保険に興味がありましたら確認してみてください。
スマホでも加入できる
この会社のランナー保険に限らず、最近はスマホで加入できる保険が増えているのは知っていたけど、私が勤務していた頃と比べると隔世の感があります。 注意したいのは、簡単に加入できるということは、自分でしっかり確認する必要があるということです。
ランニングに限らず自分の不注意で他人をケガさせることなど滅多にあるものではありませんが、30分後におこるかもしれません。
事故とかトラブルを起こしてしまった時に、あの時○○しようと思っていた、危ないとは気付いていた、保険に入らねばと思っていたが忙しくて後回しにしてしまった。なんてことはよくあることです。
昔は保険に入ろうと思ったら代理店に連絡してアポイントをとり、説明をうけて契約するのが一般的でしたから、今すぐ契約したいと思っても、すぐには契約できませんでした。

賠償責任などの話から少し逸れますが、少額短期保険会社とは、私が勤務していたメガ損保などのような巨大なリスクへの備えを提供するような保険会社ではなく、「少額」の保険金額で保険期間が「短期」の保険を扱う会社です。ペット保険など有名です。なぜ私が少額短期保険に興味を持ったかと言えば、ユニークでニッチな保険を取り扱っているからです。
私がランナーに向けて欲しいと思っているけど、現在は存在しない保険や補償など少額短期保険であれば販売は可能だと思っています。今回相談を受けた縁が続くのか続かないのかは分かりませんが、続けばそのような補償をランナーのみなさんにご紹介できるかもしれません。
話を戻して、今回お伝えしたいことは大きく以下の4つです。
- ランニング中に限らず普通に生活を送っていてもとんでもない額の賠償請求をされることがある。
- そのようなことにならないためには、危険を認識して、どのようなことになるかを想像すること。そして避けることができる危険は避ける。
- 気をつけても避けることができない事故がある。そのような事故に備えた保険に入っているかをまずは確認した方がよい。
- 最近はスマホで契約できる保険商品があるので、入りたいと思った時に加入できる。
今後もランナー向けのリスクマネジメントについての記事を書いていきます。ケガをしたりさせることは本当に不幸なことです。
知っていれば気付ける「危険」はあります。そして気付けば、防げる「事故」もあります。「事故」は不幸でしかありません。