100m×4リレーについて調べてみた

オリンピックを見ていて、いくつか書きたいことがありました。しかし、何から書こうかと考えているうちに、旬なタイミングを逃してしまっていますが、逆に時間をおいても書きたいと思うことは旬でなくても書いた方が良いと少しづつ書きます。

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まず、男子4×100mリレーについて書きます。

走った選手や、過去のオリンピックでバトンリレーを経験した方々などへのインタビュー記事など中には技術的な観点に触れたものもありますが、多くは「攻めた結果だから仕方がない」といった言葉が結論となっています。

それは間違いない事実だと思いますが、リレー競技に詳しくない方が読んでも何が起こっていたのかイメージしやすいようなことをお伝えできたら良いです。

そもそも攻めるって何?

そもそも、攻めた結果という解説者の説明を聞いて、その説明を具体的にイメージできている方ってかなり少ないと思っています。

私自身、本格的なリレー競技をしたことはありませんが、日本陸連のコーチ資格研修で講義と実技を行ったので、全く陸上に関わっていない方より知っているレベルです。

参考までに、日本陸連のコーチ資格には2種類あり、私が取得したのは「JAAF公認ジュニアコーチ」(JSPO公認陸上競技コーチ1)で、役割は地域スポーツクラブ等における陸上競技の基礎的な実技指導や、小・中・高の部活動の指導です。その上位資格には「JAAF公認コーチ」(JSPO公認陸上競技コーチ3)があり、役割は各地域および都道府県での競技者育成・強化です、こちらは都道府県陸上競技協会の推薦が必要で、日本全国で毎年60人の枠しかありません。「JAAF公認ジュニアコーチ」資格講習は、走種目以外に、投擲や、跳躍など実際に行うので結構楽しかったです。受講者には学校の先生や、競技を引退した競技者が多かったです。

話を戻すと、4×100mリレーを「4継」、4×400mリレーを「マイルリレー」、110mハードルを「トッパー」、3000m障害を「サンショー」と呼ぶような陸上競技経験のある方にとっては、今回は「攻めた」のだから仕方がないという解説でも十分意味が伝わると思うのですが、そもそもリレーで攻めるって何?という目線から書いていきます。

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4×100mリレーは一人100 mづつ走るのか?

そもそも、4×100mリレーは4人で400mを走りますが、4人が100mづつ走るわけではありません。バトンだけに注目するとバトンは400mトラック1周を選手の手から手に渡りますが、4人の選手がバトンを持って走る距離は100mづつではなく、90mの選手もいれば110mの選手もいるのです。

まず、バトンパスを行う区間は決められていて、この区間のことをテイクオーバーゾーンまたはバトンゾーンと呼ばれますが、その区間は30mになります。1走から2走のテイクオーバーゾーンはスタートから90mの地点から始まり、120m地点までになります。まずあり得ませんが90m地点でバトンパスをしたなら1走がバトンを持って走った距離は90mになるし、120m地点ギリギリで渡したのなら走行距離は120mになります。同様に2走から3走のテイクオーバーゾーンはスタートから190-220m地点になります。2走がバトンパスを120m地点で受け取り、190m地点で3走に渡したならバトンを持って走った距離は70mになります。

小学校の選抜選手ではなく、クラス全員が走るようなリレーであればテイクオーバーゾーンギリギリで待っていて、バトンを受け取ってから走るようなケースもあるかもしれませんが、通常は1走が近づいてくるタイミングを見計らって2走はスタートし加速していく。その2走に1走が追いついてバトンを渡します。

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どこでバトンを渡すとタイムは速くなるか?

バトンパスは、30mのテイクオーバーゾーンのどこで渡しても良いのだけど、その前後でのバトンパスは認められません。では同じスピードを持った選手同士(例として100m10秒)がバトンパスをしたとして、90mを過ぎてすぐにバトンパスをするのと、120mギリギリでバトンパスをした場合を比較すると、バトンが120m地点を通過するのはどちらが速いでしょうか?

感覚で分かるでしょうが、120mギリギリで渡した方が速くなります。90mでバトンパスをするのであれば2走の選手はほぼ加速していない状態で受け取るわけですが、120mギリギリであれば30m近く加速した状態でバトンが繋がることになります。

ただし、120mギリギリでバトンパスをしようとすると2走の選手もトップスピードに近づいているのと、1走の選手はペースダウンしていることから、2走の選手のスピードの方が速くなり追いつかないリスクが大きくなるのです。

今回バトンが繋がらなかったというのは、バトンが繋がらない可能性があるけど、2走が最も加速した状況でバトンパスしようとした為です。おそらく2走から3走、3走から4走(アンカー)のバトンパスも同様の戦略だったでしょう。ですから多田選手から山縣選手にバトンが繋がったとしても、そのあとの桐生選手、小池選手に繋ぐところで同様のミスが生じた可能性はあります。

日本代表選手のスピードをイメージする

参考までに、100mの選手はどのようなスピードで走るのかを紹介します。日本陸連が東京オリンピック向けに作った資料が分かりやすいのでこちらを使って紹介します。合わせてお読みください。

【記録と数字で楽しむ第105回日本選手権】男子100m番外編

今回見て欲しいのは、記事の中段にあるグラフです。

計算が分かりやすいように100mを10秒で走った時の平均速度は10m/sです。ただスタート時は止まっているわけですから最高速度はもっと速くなり11.6m/sに達します。これは時速41.7キロなのでかなりのスピードです。

まず着目して欲しいのは、平均速度10m/sに達するのはスタートからどのくらいの距離か?です。スタートの得意な選手と苦手な選手で差がつきますが、だいたい20mです。

そこから30m地点で11m/sと最高速度に近くなり、55m付近で最高速度に達してから徐々に落ちていき、フィニッシュ地点では11m/s前後まで減速していきます。後半の伸びがあるという選手も100mを加速していくわけではなく、減速に入る地点が先になるだけで、終盤は緩やかに減速していきます。

今回の4選手では1走の多田選手はスタートが得意な選手で、後半の落ちが大きい選手です。このグラフの通りに多田選手と山縣選手が走ったとすると、90m地点から120m地点に30m加速した山縣選手は時速11m/s近くまで達し、多田選手は11m/sより落ちているのだから追いつけない可能性があることを承知で勝負したのです。

例えば安全に110m地点でバトンパスをするなら、山縣選手は20m加速した地点なので時速10m/s程度で、多田選手はそれより速いので余裕を持って渡せます。

どの位置でバトンをもらうかは、多田選手がどこまで走ってきたら、山縣選手がスタートするかで決まります。今回山縣選手は通常より早くスタートを切り、テイクオーバーゾーンのギリギリまで山縣選手が加速した状態でバトンをもらうことを狙ったのです。

今回とは逆のパターンで2走のスタートが遅いと、1走が減速しないと詰まってしまいバトンを落とすようなこともあります。

日本記録は37秒43

男子4×100mリレーの日本記録は、2019年世界選手権で出した37秒43です。4人の当時の100m自己ベストの平均は10秒ほどですが、37秒43を4人で割ると9秒3575とウサイン・ボルトの世界記録を大きく上回ります。その理由はスタートの選手以外は加速して状態でバトンを受け取る加速走になっているからです。先ほどのグラフからも20mを過ぎた時点で10m/sになりそこから加速しているので、加速した状態から100mを走れば9秒前後で走るのです。1走が10秒で2-4走がそれぞれ9秒なら合計37秒になります。そして100m走は直線ですが、4×100mリレーは1走、3走はコーナーになるので直線よりは多少スピードは落ちるので37秒43というタイムになったのでしょう。

仮に全員が9秒8で走る走力があれば、ここから0秒8ほど速くなるし、10秒2になれば0秒8ほど遅くなるのでしょう。参考までに、世界記録はウサイン・ボルトがいた当時のジャマイカが出した36秒84です。

多田選手、山縣選手、両方が調子が良過ぎた?

今回、多田選手は素晴らしいスタートダッシュ決めました。テイクオーバーゾーンが始まる90mには1位か2位で到着したように見えました。しかし前半型の多田選手はそこから失速気味になり、また山縣選手も多田選手の素晴らしい走りに触発されて、素晴らしい加速をしたことから、バトンが繋がらないという結果に終わったのでしょう。

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今回の結果

タイム
1位イタリア37”50
2位英国37”51
3位カナダ37”70

今回の結果を見ると、日本記録を出せば金メダルでした。

2019年に日本記録を出した時より4人の自己ベストは速くなりましたが、100mと200mで全員予選落ちをしたくらい調子が上がっていない状態なので、例えば4人とも10秒10くらいの力だったとしたら日本記録を出した時のようなバトンパスをしたとしてもギリギリ37秒台が出るかどうかであり、それではメダル獲得は難しい。チャンスがあるなら狙いたいと、今回のような戦略となったのでしょう。

攻めた結果

リレー種目や短距離を本格的に行った方々なら、今回書いたようなことは当たり前の話であり、「攻めた結果」で伝わりますが、その意味が分からずモヤモヤしていた方も選手がどのようなスピード変化の中で走っているかをイメージできれば伝わると思います。

優勝候補筆頭のアメリカが予選落ちする中で、決勝進出を果たして、金メダルを狙う場所にいた日本選手のチャレンジは次に繋がると思う。

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