『喉が乾く前に水を飲め』は危ない 〜運動関連低ナトリウム血症にご注意を〜

ランナー

少し前に、水分補給より意識すべきことというタイトルのブログを書きました。

水分補給より大事なこと、とは少し大袈裟ですが、意識しないと出来ないことで、失敗するとレースが終わるどころか生命に関わるような事態になり得ることです。

自分自身、様々な気象条件の中でウルトラマラソンやトレイルレースを走りました。すべてのレースのことを覚えているわけではありませんが、振り返ってみると、水分補給が足りなくて脱水症状や熱中症になったレースはないと思います。胃腸をおかしくして辛いレースになったことは何度もありますが、それらのレース後に書いたブログなどを読んだり、記憶を遡ると水分補給が足りないのではなく摂り過ぎていた。もしくは摂り方を失敗したことが分かります。

今回、この記事を書くにあたり、自分自身の経験談だけではなく、ウルトラセミナー参加者 北オホーツク100キロマラソン2位入賞で紹介させていただいた、ドクターランナーの佐藤恵里さんに医学的見地などからアドバイスをいただきました。

ランニング中の胃腸障害と言っても原因や症状は様々ですので、何回かに分けて紹介します。まずは、真夏に開催される北海道マラソンや、長い時間直射日光に晒されるウルトラマラソンなどの際に気をつけなければならない「運動関連低ナトリウム血症」の予防について紹介します。

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私のおんたけウルトラでの事例

ランナー

7月中旬開催のおんたけウルトラマラソンを走った時に、序盤から低ナトリウム血症の状態になり、走れなくなり終盤まで耐えるレースになりました。状態が悪くなってからは無理に走らず、塩分補給をしながら復活を信じて先に進んだので、70キロくらいからは徐々に走れるようになり13時間少しでゴール出来ました。そのレース序盤に、頭が少しボーとしていたのかもしれませんが、なんだかどこがで同じような光景をみたような気がしました。おんたけウルトラは、夢に出るくらい同じような光景が何回も何回も現れてきますが、そういう話ではないのです。何が見えたらかというと、おんたけで苦しんだ時に、スパルタスロンの光景が重なって見えてきたのです。

実際は全く違う光景なのに、なぜスパルタスロンの光景が浮かんだのが不思議でした。スパルタスロンで学んだことで書きましたが、様々なトラブルがこれでもかというくらい襲ってきて、始めてゴールまで辿り着けないレースになりました。その時の脱水症状の原因は、自分なりに塩分補給の対策をとっていたことから、塩分が足りなかったのではなく、塩分取り過ぎで気持ち悪くなったのだと考えていましたが、やはり塩分が足りなかったのだと今は思ってます。ゲイターなどが真っ白になるくらい塩を吹いていたのだから、全く足りていなかったのでしょう。それを思い出して、塩分が足りていないと、塩分補給を始めたのです。その結果、おんたけは結果的には大撃沈というほどのタイムではなくゴールしましたが、スパルタスロンや、その他、過去苦しい展開となったレースを思い浮かべると共通点が見えてきました。

それは、エイドにスポーツドリンクがなかったことです。スパルタスロンのエイドは水やコーラ、ジュースなどでスポーツドリンクはあまりなかった。おんたけは水のみです。スポーツドリンクに含まれている塩分は、汗に含まれる塩分と比較すると少ないですが、真水を飲むよりは間違いなく良いです。私は長時間のレースになる時、また暑く汗を多めにかくレースでは真水は飲みません。どうしても口に入れたいときは少量にするか、吐き出します。

おんたけウルトラの際は、ハイドレには真水を1.5リットル、胸のボトルにスポーツドリンク500cc、エナジージェルの他、塩飴や、塩タブレット、あんぱんなど固形物を少量持ってスタートしました。普段ザッグを背をわない私はザッグの重さが気になり、少し軽くしたいという気持ちがあり、またスタートから蒸し暑く、ハイドレのチューブに口をつける頻度が多かったと反省しています。また序盤は塩飴などの摂取をしなかったのが原因だと思っています。


以下、佐藤医師に教えていただいたことを紹介します。

「運動関連低ナトリウム血症」による症状

ランナー

運動により汗でナトリウムが失われ、不適切な水分補給をすることで血が薄まることが主な原因で起こります。


【代表的な症状】

・運動能力の障害

・手足のむくみ

・めまい

・嘔気、嘔吐

・頭痛

・意識が遠のく

・怒りっぽくなる、混乱する

・けいれん

・尿が出なくなる


正確な診断は医療機関で血中ナトリウム濃度を測定、135mmol/L以下で診断されます。

2015年に、医師向けの治療指針が改定され、医療関係者は衝撃を受けました。

それまでは『レース中は喉が乾く前に水を飲め』が常識だったのが、『喉が乾いたときに(だけ)飲むことが望ましい』と変更されたのです。水に限らず、エイドのスポーツドリンクは塩分濃度が薄いため、飲み過ぎてしまうとこの病態を引き起こしてしまいます。2002年のボストンマラソンのデータでは運動関連低ナトリウム血症になったランナーは、症状の出ない軽症の方も含めると13%もいたと報告がありました。治療は熱中症とは異なり、水はあまり飲ませずに濃い塩分のスープなどを少量飲ませることが推奨されています。重症の場合は医療機関で点滴を行います。

「運動関連低ナトリウム血症」のリスク因子

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・水分補給の機会が多いレース

・過度の水分補給

・体重の軽い人

・女性

・スピードが遅いランナー

・経験の浅いランナー

・消炎鎮痛剤の服用

・4時間を超える運動時間

・暑い気温

・極端な低温


これらの因子を見ると、夏に行われるウルトラマラソンは非常にリスクが高く、特に「初ウルトラで時間内完走を目的とする人」に起こりやすいかもしれません。ベテランランナーもウルトラマラソン、ロングトレイルなどのロングレースは常に注意が必要です。サブ4を達成していないランナーは、フルマラソンでも起きる可能性があります。ロキソニンなどの消炎鎮痛剤は腎臓に作用して、この病態を悪化させる作用があります。この点からもレース中の内服を避けるべきです。

予防するには?

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・喉が渇いていないのに、ガブガブ水分補給をしすぎない。

・水分補給する時に、塩分を一緒に摂取する。

・普段から暑さに身体を慣らしておく。

・汗から失われるナトリウムは、たくさん汗をかいていくうちに濃度が減ってきます。あらかじめ暑さに慣れておくことで体から失われるナトリウム量を減らすことができます(暑熱順化)

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水分補給量の目安

*水分・塩分摂取量については、心臓および腎臓の機能が正常であること、血圧が正常であることを前提にお話しさせていただきます。

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夏の暑い日にかく汗の量を把握しておくと目安になります。

方法は簡単で、練習前にトイレと水分補給を済ませてから裸で体重測定をしておく。水分補給なしで30分〜1時間程度練習(レースペースならさらに良い)して戻り、ウェアを全部脱いで体重を測定。減った分が汗で失われたおよその水分量です。

汗の量は個人差が大きく、気温や体調に大きく左右されます。私は身長150cmと小柄なのもあり、気温30度、キロ6で1時間走っても800g程度しか体重減少がなく、汗による水分喪失は800ml程度と目安がつきます。大柄の男性はもっと汗の量が多く2L以上になることもあります。普通の方がザックリ考えるときは(暑い季節だと)1時間あたり1Lと目安をおきます。

レース当日、キロ6で走っていて、3kmおきにエイドがある場合、1時間に3回エイドに寄れます。そこで1箇所あたりコップに2杯、400ml飲んだとすると、1時間あたりの水分摂取は400×3=1200mlとなり、私の場合は汗で失う分を超えてしまいます。数時間で終わるレースならこの程度の差異は問題ありませんが、10時間それを継続し続けると、水分過剰になる可能性があります。


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参考までに、日本ランニング学会からの推奨水分補給量は

・エリートランナー、体の大きなランナーは1回に100~150ml

・遅めの市民ランナー、体の小さいランナーは1回に50~100ml

1時間に3回程度に分け、合計400~800mlの補給。気温が高い時はそれよりやや多め、気温の低い時はやや少なめとなっています。

塩分補給量の目安

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身体の塩分濃度が下がると人間は”喉が渇いた”という様に自覚してしまいます。喉が渇いたら味の薄いものを飲みたくなりますが、ウルトラマラソンのようなリスクの高い大会に出る時は敢えて塩分の濃いものを一緒に摂取するのが原則です。

(以下、食塩相当量g=ナトリウムmg×2.54÷1000で計算します)

必要な塩分量を見極めるのは大変難しいです。一般に汗の塩分濃度は0.3〜0.9%程度と言われ、暑熱順化が済んだランナーの汗は薄いので0.3%以下になっていることもあります。

0.3%で計算した場合、1時間あたり1L程度の汗をかくと1000ml×0.3%=3g

まとめると、暑い時期のレースの場合1時間あたり水分1L、塩分3gが補充の目安となります。寒い時期のレースはこれよりだいぶ少なくなります。

塩分量とナトリウム量は違う

ランナー

佐藤医師にアドバイスをもらった直後に購入したポカリスエットゼリーのパッケージに表示されたナトリウム量を確認すると、ナトリウムは180g中に93mgしかないことを知った。

93mgということは0.1gもないわけで、1リットルの汗をかくと3gの塩分補給が必要とするとこんなにも少ないのかと思い、ポカリスエットのドリンクを確認すると100mlあたりナトリウムは 49mgであった。ということは1リットル飲んでも490mgしか取れない。汗で出てしまう塩分3gと比較するとあまりにも少ない。

少し疑問に感じて調べてみると、大きな勘違いをしていることに気づきました。それはパッケージに表記されている栄養表示の【ナトリウム】は【塩分】とは違うのです。

ナトリウムは食塩に含まれる成分の一部であり、「ナトリウム量=塩分量」ではないのです。


上記で佐藤医師が説明している計算式は、ナトリウム量を塩分量に置き換える計算式なのです。

ナトリウム量を食塩相当量(塩分量)に置き換えると、ナトリウム量(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)となるのです。

したがって、ポカリスエットを1リットル飲むと、塩分は1.24g(490mg×2.54)であり、塩分必要量目安の半分以下の水準にはなるのです。

私同様、知らない人がいると思い、追記させていただきました。

実際の補給について

ランナー

一般的なスポーツドリンクの塩分濃度は低く、平均すると1L飲んでも1.2〜1.24g程度の塩分しか補充できません。エイドでのスポーツドリンクは薄めて作ってありますから、汗で失われた分より随分少ない事がわかります。

経口補水液OS-1は、塩分が他のドリンクより多く(約2倍)1Lあたり2.92gも含まれており、まさに補充量を満たすために作られていてお勧めです。しかし、OS-1を置いているエイドは殆どありません。OS-1は小腸からの吸収を良くするように調整されていますので、水で薄めたりジュースなどを混ぜたり、また冷凍して飲用することは濃度勾配が変わってしまいますのでお控えください。トップアスリートでも自己流のスペシャルドリンクをOS-1+αで作っている選手もいるようですが、お勧めはできません。

梅干しの塩分濃度は、大きさや塩分濃度でかなり差があり、1個あたり1〜4g程度です。エイドにある梅干しは小ぶりなので、1g程度摂取できると考えられます。大きめのものは2〜3gです。

塩飴は1個あたり0.2~0.15g程度と、あまり多くないものが殆どです。1時間あたり15~20個食べないと補充量の目安に届かないので、補充としては良いものですが、それだけでは十分ではありません。

以下は塩飴の塩分量をまとめたサイトです。

この塩飴がスゴイ!! 熱中症予防の塩分補給にぜひ!

実際のレースではいちいち何g摂れているかを計算するのは困難です。エイドでは甘いものより先に塩気のあるものを先に摂取することを原則としました。美味しいと感じたら、まだ必要なのかもしれないと思っていました。塩を単体で摂取すると胃粘膜を荒らしてしまう恐れがあるので、他のものと一緒に摂取をお勧めします。

佐藤医師の実際の経験

ランナー

私自身が北オホーツクを走った際の対応を改めてご紹介します。

初100km(経験が浅い)、気温30度超え、小柄、女性、ロングレース、水を飲めるエイドが頻回、と低ナトリウム血症のリスク因子が沢山揃ったレースでした。

元々私は暑さには弱い方なので、春から暑さに慣れるために少しずつ暑い環境で短時間の練習をして、暑熱順化を済ませておきました。エイドでは最初に一口水またはスポーツドリンクを飲んでから小ぶりの梅干しを一つ食べました。その後、ゆっくり残りの水を飲み干します。その時点でまだ飲みたいと思ったらもう1杯だけ飲みました。オホーツクはエイドが2〜3kmごとと豊富なので2杯以上は飲まないと決めていました。30度を超えるレースでしたが、暑いから沢山水を飲むと低ナトリウム血症になるという意識を常に持っていました。塩を直接胃に入れると刺激が強いため、スイカに塩を振って食べたり、おにぎりに塩を振ったり、補給をする時は糖分より塩分を優先的に摂りました。


当時の私が原因を見つけられたのは先輩ランナー方からの適切なご助言のおかげでした。今回の記事に関して、特にお世話になった日本医師ジョガーズ連盟:中村集先生に監修をいただいております、お礼を申し上げます。


本サイトより追記

トレランレースであればハイドレーションを使うケースが多いと思いますが、洗うのが面倒なのでスポーツドリンクではなく、真水を使う方が多いと思います。実際スポーツドリンクは糖分が多く、細菌の温床になり清掃が十分でないとカビが発生したり、臭いがついて使用不能になります。

ただし、水1リットル飲み間に塩分3gを摂取するのは難しいので、暑い時期のレースであればスポーツドリンクを使った方が良いと思います。もしくは、胸にボトルを収納できるタイプのザックであれば、スポーツドリンクを濃いめに作って真水を飲んだ際に、合わせてスポーツドリンクを飲めば良いでしょう。

また、塩分の多いOS-1など経口補水液の粉末状のモノを小さいビニール袋に入れて傾向し、エイドで水に溶かして飲んでいるランナーもいるし、エイドステーションのスポーツドリンクに塩を一掴み入れて飲んでいるランナーもいます。

対策はいろいろありますが、注意して欲しいのはいきなり本番で実施するのではなく、練習で試してみることです。例えば紙コップ一杯のスポーツドリンクにどの程度の塩を入れると塩分濃度は適正量になるのかは1回計算し計れば把握できますし、その塩を入れたスポーツドリンクは飲める味かどうかを試してください。

私も、明日奥武蔵へ練習に行くので試してみます。

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