東京マラソンスタート直後に転倒事故発生〜整列順と準エリートについて〜

東京マラソン

本サイトでは、ランナーが事故でケガしたり、事故を起こして、ランニングができなくなってしまうような不幸な出来事を少しでも防止するために、練習コース紹介 〜安全に走るために〜ランニング危険予測トレーニングを定期的にアップするとともに、スムーズなスタートで事故を減らすためにというような大会主催者への提言記事を書いています。


今年の東京マラソンには、スポーツを軸とした新しいライフスタイルを享受できる社会の実現に向けて進む、一般財団法人東京マラソン財団 スポーツレガシー事業のチャリティーランナーとして『ランナーが安全に快適に走れる環境作り』という趣旨のゼッケンをつけて、走らせていただきました。

今回ランナーとして走り、セキュリティー対策にも多くの時間や労力を使ったことは感じました。また10000人のボランティアをはじめとする多くのサポートのおかげで快適に走ることができ感謝しております。路上に倒れているランナーへの素早い対応も目にしました。倒れそうなランナーへの声かけも目にしました。非常に組織的な運営をしていたことは間違いありません。

ただ1点だけ残念であったこと、問題と感じたことがあります。

それは、スタート直後だけではなく、序盤に転倒事故が何箇所かで発生していたことです。他の都市型マラソンではこれほどの頻度で転倒事故は見かけません。

特にスタート直後の転倒事故は多くのランナーが巻き込まれました。救急車が来るほどの怪我であったのかは分かりませんが、けがをしたランナーはいます。

レース前から危ないなと感じ、実際に走って危ないと感じたことが現実に発生していたことを友人のFacebookで知り非常に残念でした。

大会ホームページには事故もなく大会に終了することができたと書かれていますが、本当にそうでしょうか?

一歩間違えば大惨事に繋がったかもしれません。今後もずっと続いて欲しい素晴らしい大会だからこそ問題点と再発防止策の一例について書かせていただきます。

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転倒事故発生時の状況

東京マラソン

今回、私の友人は、この東京マラソンで自己ベストを狙うために一生懸命練習し、調整も万全でレース当日を迎えました。そしてスタートロスを極力減らすために、Bブロック最前列に並ぼうと、スタート時間の1時間半前から待機したそうです。その結果、Aブロックとの区切りロープが外されると、準エリートランナーのブロックであるAブロックの直後につけることができました。

号砲がなり、一斉にスタートし、友人は10秒程度でスタートラインを通過しましたが、その直後に事故は発生しました。

友人の、直前で、準エリートの女子選手が、後方からの男子選手と接触し倒れ、その周辺は10数人がドミノ倒しとなり、それを見た友人は、瞬時に避けようとしましたが、逃げ場がなく、後方からもランナーが押し寄せるので止まることもできず巻き込まれ転倒しました。後方からは3万人以上のランナーが押し寄せてきます。彼は転倒時にスネや腰を強打するとともに、シューズも脱げ。そのシューズは彼の後方20mにあったとのこと。彼はそのシューズを取りに行くには30000人以上のランナーの波に立ち向かう必要があり、すぐにシューズを取り戻して走りたいという気持ちはあるが、押し寄せる3万人以上のランナーへの恐怖心から、死を感じ躊躇したと話しています。

彼はその後、冷静に対応し、3分程度のロスでリスタートし、痛さを我慢し懸命に走り、目標タイムはクリアできないまでも、福岡国際の標準記録までは盛り返したそうですから素晴らしい精神力の持ち主です。しかし帰りの電車で背後から背中を押された程度でも恐怖を感じるくらいのトラウマになったと話しています。

昔、谷口選手がレース中に靴を踏まれ転倒し、『転けちゃいました・・・。』の発言は有名ですが、今回のような大規模マラソンのスタート直後のドミノ倒し状態は非常に危険です。


(追記)

その時前方の巻き込まれていたランナーの中にも友人がいたので、その時の状況を教えてもらいました。また巻き込まれないが必死に避けていたランナーからも状況を教えてもらいました。

準エリート女子に聞いた状況

とにかくレースを振り返ってもあまり覚えていないんです。前方で次々に転んでいくランナーに巻き込まれて転倒した。転んでいるのに押され踏まれ、もう立てないんじゃないかと思い恐怖になりました。立ち上がろうとした時もまた転びそうになるくらい後ろから押されていて本当に怖かったです。 念願の東京だったし、この日のために練習してきたのでとても悔しく辛く、はじめてレース中に涙を流しながら走りました。トラウマになってしまい、念願だったのにもう走りたくない大会になってしまいました。仲間にも転倒したランナーいるし、ゴール後泣いていたら知らない方から私も転びましたと話し慰めてくれた女性もいました。

Bブロック最前列近くに並んだ男子ランナーに聞いた状況

準エリートのランナーがあちこちで転倒し、ひどい状況でした。後ろのランナーが前にぶつかって転倒というより、前が詰まったのを避けようと、横にかわしたところ後方のランナーの進路が狭まって絡まるような状況でした。横から突然出てくると、減速するか当たるかで、どちらにしても後ろは詰まってドミノ倒しになります。前方でゆっくり走っているランナーも、後ろから来るランナーにとってはスピード差から相対的には転んでいるランナーと同じなので、前に現れると避けるのも限度があり、隣を巻き込んでの転倒の連鎖を生み出してたのだと思います。

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なぜレース前に危ないと感じたか

東京マラソン

レース前から危ないと感じていた理由は、準エリート枠であるAブロックのあり方と、男女混在のスタートブロックです。

スタート時にスムーズに走ることはタイムロスに繋がるだけではなく、事故を未然防止します。

では、スムーズにランナーが走るには何をしたら良いか?

譲り合いの精神、リラックスして走る、周りを労わる・・・

もちろんこれらの気持ちは大事ですが、一番大事なのは整列順です。スムーズなスタートで事故を減らすためにで書きましたが、速いランナーから順にスタートすれば理論上は詰まることはなくスムーズに走れます。

今回は、この点に問題があるとレース前から感じていたのです。


東京マラソン2016の整列順

・招待選手(男女別)

・エリート(男子 2時間21分以内 女子 2時間52分以内 その他ハーフなど資格タイムあり)(男女別)

・Aブロック 準エリート(各都道府県の選考レースで上位に入り、各都道府県陸協から推薦を受けた選手 約1000名)

・Bブロック 詳細は確認していませんが、申告タイムで3時間30分以内のランナー

・以下Cブロック以降も申告タイムによる。


一番の問題は、BブロックにAブロックより速いランナーが多数いることです。上記整列順を見れば速い順になっているように思えるかもしれませんが違います。

その理由と問題点を書く前に準エリートについて簡単に紹介します。

準エリート選考について

準エリートは以下のように決められています。

出場対象

国内在住者(国籍は問わない)で、提携陸上競技協会・提携大会からの推薦を受けた日本陸上競技連盟に登録しているランナー

推薦基準タイム

マラソン 男子 2時間55分以内、女子 3時間40分以内
30km 男子 2時間00分以内、女子 2時間30分以内
ハーフ 男子 1時間21分以内、女子 1時間45分以内
10km 男子 35分以内、女子 40分以内

提携大会選定基準

日本陸上競技連盟公認大会、各都道府県陸協への意見照会など

参加予定人数

各都道府県×50人程度

提携大会一覧はこちら


推薦基準タイムを見て驚いた方もいるでしょう。特に女子はマラソン3時間40分以内、ハーフ1時間45分以内とあります。

現実には東京や埼玉などのレベルは高く、準エリートとして走った友人のハーフマラソンのタイムは1時間30分以内ですが、大都市圏以外の都道府県だと推薦基準タイムギリギリのランナーもいると聞いたことがあります。

もちろん推薦を勝ち取ったランナーは頑張り参加資格を勝ち取ったのですから誇って良いと思います。

10都道府県には提携大会がない

2016年大会の提携大会がない(準エリートがない)都道府県は10ありました。

神奈川、長野、静岡、愛知、京都、岡山、愛媛、福岡、熊本、沖縄です。

それぞれ大きな人気大会を抱えている都道府県です。

例えば、以下の大会です。

神奈川(湘南国際マラソン、横浜マラソン)、長野(長野マラソン)、静岡(静岡マラソン、しまだ大井川マラソン)、愛知(名古屋ウィメンズマラソン)、京都(京都マラソン)、岡山(おかまやマラソン)、愛媛(愛媛マラソン)、福岡(福岡マラソン)、熊本(熊本城マラソン)、沖縄(NAHAマラソン、沖縄マラソン)

各陸連の意向が存在するのは分かりますが、結果として、これらの都道府県陸協に所属しているランナーには、準エリート枠は原則ありません。 原則と書いたのは、都道府県により、扱いは様々だからで、私も細部までは把握してませんし、2015年大会と、2016年大会で変わっている都道府県もあるからです。ただ少なくとも、提携大会が多い、東京都開催のレースにおいては、準エリートとして推薦されるのは東京陸協所属選手のみです。

東京の大会であれば、近隣の神奈川県の選手もたくさん走り、上位に入っていると思いますが、準エリート選手としては推薦されません。

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問題点

東京マラソン

エリートや準エリートなど参加資格に関わることも、ブロック順についても主催者サイドが決めることですから、参加者はそのルールに則ってる走ることになります。

私が問題と感じているのは、準エリートは地域差があり、準エリートに選出されたランナーより、速いランナーがたくさんいるということではありません。

何事においても運・不運や不公平と感じることはあります。


今回転倒に巻き込まれた友人をはじめ多くのランナーは不運だったと思います。

しかし、今回の事故は運・不運だけではなく、かなりの部分、事前に防止できたことなので非常に残念です。今回の大会が事故もなく無事に終了したと本当に思っているなら、来年以降大会存続が危うくなるような重大事故が発生する可能性があります。

スピードがまるで違う

男子のエリート資格タイムは2時間21分以内ですが、この資格をクリアできず、また準エリート枠がとれなかった選手は、今回2時間26分58秒で走った平塚潤選手をはじめ、2時間30分以内で走る速いランナーであってもBブロックに整列しました。


(追記)友人情報ですが、実際に持ちタイムが2時間21分台のランナーがBブロックにいたそうです。


仮に2時間22分で走るランナーの平均スピードを計算すると。キロ3'22ペースです。これは1秒間に約5m進みます。となると3秒で15m進むわけですから、前方で転倒したランナーがいても避ける時間はほとんどありません。特にこのレベルのランナーはスタート直後はキロ3分で走ると思います。このペースは3秒で16.7m進みます。

また3時間40分で走るランナーは平均ペースはキロ5'13です。これは1秒間に3.2mで、3秒で9.6mです。

このように明らかにスピードが違うのです。

前方に自分よりこれほど遅いランナーがいたとして、自分の直前を走るランナーたちがサッとかわし、自分の目の前に現れたら避けようがありません。

断っておきますが、Aブロックからスタートした女性ランナーが悪いと言っているのではありません。正規の位置につき、スタートしているのですから自分のペースで走ることはなんら悪いことはありません。

また、男女別整列になっていないのも非常に危険です。招待選手・エリート選手は正面からみて右側に女性、左に男性が整列していますが、準エリートからは男女が混在しています。女性のエリート選手より速い準エリート・Bブロックの男子ランナーは多数いますから女子エリート選手もスタート後は怖いと思います。


なぜ、3時間40分近いタイムのランナーの後ろに1時間以上速いランナーを配置することにしたのか、男女別の整列にしなかったのかが問題なのです。

別大マラソンなどはタイム順整列、男女別の整列のため、非常にスムーズにスタートできました。スタートラインを越えてからの混雑も気になるレベルではありません。それは速いランナーが先に走るという原理原則を取っているからです。

東京マラソンはこの原理原則が守られていないのが問題だと思います。

事象分析(原因分析)

東京マラソン

少し分析してみます。

まず、下記の表はエリートからBブロックまでのランナーのタイムと、そのタイムで走るための平均ペースです。もちろん平均タイムですからスタート直後はもっと速いでしょう。

カテゴリートップラストトップのペースラストのペース上位カテゴリーとのペース差
タイムは推定です。
エリート男子 2時間04分 2時間21分 2'56 3'20
エリート女子 2時間30分 2時間52分 3'33 4'05
準エリート男子 2時間21分 2時間55分 3'20 4'09 -45秒
準エリート女子 2時間52分 3時間40分 4'05 5'13 なし
Bブロック男子 2時間21分 3時間30分 3'20 4'59 -1分53秒
Bブロック女子 2時間52分 3時間30分 4'05 4'59 -1分08秒

この表では男女を分けましたが、実際には男女が混在しています。実際に存在するかは分かりませんが、準エリート女子でもっとも遅いタイムのランナーは3時間40分で、Bブロックの最速ランナーは2時間21分台です。

このタイムのランナーの1キロペースは5'13と3'20ですから、キロ1分53秒も速いランナーが後ろにいる可能性があるのです。これでは前に並んだ準エリート女子選手は怖いと思います。


上でも書いたように、スピード差があり、3時間40分で走るランナーが1キロ進む間に、2時間21分で走るランナーは1570m進みます。

そして転倒したランナーがいたら、避けようとしても1秒間に5m進み、左右にもランナーがいるので避けようがありません。仮に止まれたとしても後続ランナーに追突されます。

転倒したことを想像してください。もちろんそれだけスピードが出ているわけですから痛いです。そして後方から30000人以上のランナーが押し寄せてくるのです。後続ランナーも避けたり止まったりできませんから、踏まれ続けるかもしれません。考えただけで恐ろしいです。


もちろん、申告タイムを偽って達成不可能なタイムでエントリーするランナーはどの大会にもいますので、同様のことは起こりえますが、全員が正しく申告したとしても、現在の東京マラソンのシステムだと大事故に繋がる可能性があるのです。

再発防止案

東京マラソン

準エリートというカテゴリーをなくせば、安全に走れるかと言えば、現時点よりは安全にはなります。上記表の準エリート区分を抜けばほぼタイム順になります。もちろん同一ブロック内では整列順ですから遅いランナーが速いランナーの前にくることはありますが、ブロック間では速い順の整列となります。

ただ、準エリートというカテゴリーを作った試みは素晴らしいと思います。

エリート以外は、抽選のみというのではなく、頑張っているランナーにはよりチャンスを与えるというのは賛成です。

スタート時の安全面が問題のわけですから、この部分をある程度クリアできるよう制度を見直せば良いのです。

もちろん、完全に事故を減らすことはできませんが、リスクを減少させることは可能です。大会主催者はリスクの極小化を第一優先に考えるべきでしょう。


具体的に今思いつくだけで3つの案があります。

資格タイム制への移行

現在の非常に分かりにくい、地域によって枠がないという準エリート選出の仕方を、分かりやすく公正にするの資格タイムの導入です。

東京マラソンのエリート資格は非常に厳しく、特に男子は実業団並みのレベルにないとクリアできません。そこでエリートに準ずるカテゴリーである準エリートについて、例えば、男子2時間45分、女子3時間15分といった参加資格タイムを作ったら良いのです。

上記タイムは一例ですが、人数の関係で少なくしたいなら厳しくすれば良いし、増やせるなら緩和すれば良いのです。

エリートとは違い、資格タイムをクリアすれば全員参加できるという以外は、一般抽選のランナーと同一でも良いと思います。

男子の2時間45分というのは福岡国際マラソンには中々手が届かないランナーに向けたものであり、女子の3時間15分というのは、少し前までの国際女子マラソンの参加資格タイムです。

この準エリートカテゴリーであれば、招待選手 ー エリート 準エリート(Aブロック) ー 一般(Bブロック・・・)と、速いランナーから遅いランナーへと整列できます。


準エリートを作った趣旨のひとつである、地域大会の活性化については、現在同様提携大会からの出場権付与は続ければ良いと思います。しかし整列ブロックはタイム順です。

タイム順整列

福岡国際マラソンや別大マラソン、国際女子マラソンで行っている、タイム順にゼッケン番号を割り振り、整列もゼッケン順にする方式ですが、準エリート(Aブロック)やBブロックの陸連登録者など前方のランナーについては実施して欲しい。

ただし、その場合は現在の準エリートの資格タイム制への移行がないと、問題は残ります。

男女別整列

上記案との併用、もしくはこれ単独でも効果はあります。

概要は、準エリート(Aブロック)およびBブロックまでは男女が左右に分かれて整列する男女別整列にするのです。現在の準エリートの仕組みを変更しなくても現在より安全に走れます。

イメージとしては正面から見て左側は男子の招待選手・エリート・準エリート・Bブロック男子と並び、右側に女子の招待選手・エリート・準エリート・Bブロック女子と並ぶのです。

先ほどの表を使って検証してみます。

ランナー分析(男子)

まず男子です。

カテゴリートップラストトップのペースラストのペース上位カテゴリーとのペース差
タイムは推定です。
エリート男子 2時間04分 2時間21分 2'56 3'20
準エリート男子 2時間21分 2時間55分 3'20 4'09 なし
Bブロック男子 2時間21分 3時間30分 3'20 4'59 -49秒

理論上、準エリートの一番遅いランナーとBブロックの一番速いランナーのタイム差は49秒になりました。現状制度だと2分近い差があるのですから、よりスムーズになります。またこの比較はあくまでも理論上の計算であり、実際には準エリートのもっとも遅いランナーはもっと速いだろうし、Bブロックに並ぶ最速ランナーも2時間21分より遅いでしょうから、よりタイム差は緩和されます。

ランナー分析(女子)

続いて女子です。

カテゴリートップラストトップのペースラストのペース上位カテゴリーとのペース差
タイムは推定です。
エリート女子 2時間30分 2時間52分 3'33 4'05
準エリート女子 2時間52分 3時間40分 4'05 5'13 なし
Bブロック女子 2時間52分 3時間30分 4'05 4'59 -52秒

この仕組みにすることで、女子エリートおよび準エリートの選手は今回のように後方からの危険を感じることなく走れると思います。

最後に

ここまで書いて、接触するようなスピードで走らねば良い。前が転倒したら止まれるようなスピードで走れば良い。スタートはゆっくり走れば良い。と思う方もおられるでしょう。

ただ、男性で2時間40分を切るようなランナーは、1分どころか1秒削るために一生懸命努力しているのです。

そのために、1時間30分前から整列してタイムロスを減らそうとしているのです。

速いランナーが偉いとかいう話ではなく、可能な限り安全に事故を起こさずに走るための仕組み作りを運営はすべきだと思います。

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