富士登山競走にみるトップランナーの強さ

富士登山競走

(男子優勝の松本 翔選手  Team M×K


昨日開催された富士登山競走の応援に行ってきました。今まで富士山には登ったことがないので初めての富士登山です。

一週間前の上州武尊スカイビュー・ウルトラトレイル60のダメージが残っているのと、睡眠不足だったので調子が良くても八合目辺りまで行って下山することにしていました。

富士登山競走

重たいザッグを担いでゆっくり五合目から登り始めました。富士山山頂は雲がかかっていましたが、五合目から下を見下ろすと素晴らしい景色が広がっていました。

右下に見える湖は山中湖で、正面に見える山々はウルトラトレイル・マウントフジの舞台になっている山々です。私が走った第一回大会は時計回りでしたので序盤にこれらの山々を登り、そして下りました。

その厳しかった山々が五合目から見るとこんな低く見えるのです。この高さまで登ってもまだ半分の高さであることを考えると一気に3,000m登るこのレースの難易度が如何程か分かります。

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富士登山競走(山頂コース)の概要

富士登山競走

(女子優勝の小川 ミーナ選手  PUMA RC


【コース】

富士吉田市役所から吉田口登山道を経て山頂に至る距離21㎞ 、標高差約3,000m

【関門及び制限時間】

・五合目(佐藤小屋)関門:2時間20分

・八合目(富士山ホテル)関門:4時間

・山頂ゴール制限時間:4時間30分

【主な参加資格】

過去3年間の五合目関門通過タイムもしくは五合目ゴールタイム2時間25分以内

*2017年開催の第70回大会より2時間15分以内となります。

詳しくは 富士登山競走大会ホームページ をご参照ください。

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富士登山競走にみるトップランナーの強さ

富士登山競走

(男子2位の菊嶋 啓選手)


この大会の歴代記録は、2011年の第64回大会で宮原徹選手が出した2時間27分41秒という驚愕のタイムです。

驚くことに富士吉田市役所から16キロ(標高差 1,460m)の五合目までを、1時間16分33秒で通過して山頂を目指しているのです。

初心者ランナーが、フラットなコースで開催される10キロレースを走る時間で五合目まで到着してしまうのです。

また一般登山者が休憩を除いて5〜6時間かけて登る、五合目から山頂までを1時間11分08秒で駆け上ってしまうのです。

富士登山競走

今回は仲間の応援とともに、トップランナーは険しい岩場を駆け上ると聞いていたので、どのような強靭な身体とテクニックなのかを自分の目で確かめたいと思ったのです。

そして実際にトップランナーの走りを目の当たりにして、驚くとともに感動しました。

驚いたと書くと、読んだ方は険しい登りの岩場をカモシカのように、飛び跳ねるかのように駆け登る走りをイメージするでしょう。

私も自分の目で見るまではそう思っていました。

でも違います。

もちろん七合目スタートなら、そのような走りが出来るかもしれませんが、ここに来るまでに既に2000m以上登ってきた脚はもう限界に達しているのです。

富士登山競走

(女子優勝の小川 ミーナ選手  PUMA RC


また、この辺りでも標高は3000m近く、酸素はかなり薄くなっています。じっくり登れば徐々に慣れるでしょうが、標高700mの富士吉田市役所から一気に登っているのだから、心拍数はあり得ないZONEに入っているでしょう。

私が驚いたのは、トップ選手が鎖や岩を掴んで、思うように動かなくなった身体を必死に前に出そうともがき苦しんでいる光景です。

スムーズに呼吸が出来ないのか、激しい呼吸音が辺りに響き渡りました。

富士登山競走

(男子2位の菊嶋 啓選手)


また泣き出しそうなくらい顔を歪めて、必死に走っているランナーもいます。戦いの相手は前後のランナーだけではなく、折れそうになる自分自身なのです。

富士登山競走

(男子8位の江本 卓選手)


そんな必死の走りを見ていると、思わず大きな声で応援していました。恥ずかしいとか、そんな感情はなくとにかく応援したくなったのです。

富士登山競走

(男子4位の高橋 幸二選手)


また数年前にロードレースで折り返してきたトップランナーの激しい息遣いを思い出しました。当時の私は速いランナーは楽に走っていると思っていましたが、顔は大きく歪み、反対車線から聞こえてくるような激しい息づかいに驚きました。速いランナーほど必死に走っているのを知りました。

苦しくてペースが落ちてきても耐えようとしない私より明らかにキツそうなのに、必死にペースを保って走る姿を見て自分のダメさ加減を思い知りました。

富士登山競走

(女子優勝の小川 ミーナ選手  PUMA RC


よく、速いランナーは才能や身体の作りからして違うから速いのは当たり前というような話をする人がいます。

だいたい、自分には才能がないから無理だと続きます。

もちろん走るための才能は人それぞれでしょう。

ほとんど練習しなくても、ある程度走れてしまう人はいます。

でも、大会で上位に入る選手は、才能だけではなく高みを目指して努力しているのです。

そして努力をしたからこそ、苦しい時にこんなにも頑張れるのです。

富士登山競走

(男子7位の小川 壮太選手)


優勝した松本 翔選手( Team M×K )は、『山慣れしてなくて、後ろが怖くて必死でした。』と話しているが、優勝目指して自分にできる走りをスタートからゴールまで続けたのでしょう。

富士登山競走

(男子優勝の松本 翔選手  Team M×K


彼が誰よりも速く、私の前に現れた時の、激しい息づかいと、必死に鎖を手繰り寄せて頂上を目指す姿は今でもはっきり覚えています。


その優勝した松本 翔選手を必死に追いかけた菊嶋 啓選手も、『7合目、特に岩場からは非常にきつい区間でした。』 と話しているが、見ている私が苦しくなるほど必死に前を追っていた。

富士登山競走

(男子2位の菊嶋 啓選手)


今回初挑戦ながら4位入賞を果たした高橋幸二選手は、4月の3000m障害の記録会で水濠着地の際に捻挫してしまい、6月迄走る事が出来なかったという。そして数回予定していた試走にも行けず当日のイメージが全く出来ていない状態でのスタートになったが、3時間切りを目標に序盤から攻めるレースをして、後半は激しい順位争いをしながらも2時間51分54秒の素晴らしいタイムでゴールした。

山小屋の位置や距離感がない中でのレースに不安はあったが、自分にできる走りをするしかないと話している。

富士登山競走

(男子4位の高橋 幸二選手)


男子5位入賞の大瀬選手は、厳しい状況になった時のことをこう教えてくれた。

富士登山競走

(男子5位の大瀬 和文選手 )


『 ”歩いても走っても苦しさは変わらない”と、自分自身に言い聞かせて、常に前に見えていた選手に追いつくことと、後ろの選手を離す事を考えていました。』

富士登山競走

(男子5位の大瀬 和文選手 )


この言葉には、精神論的なことだけではなく、レースマネジメントの大事なことがたくさん詰まっている。

こんなことが脳裏に浮かんだ。

ウルトラマラソンでキツくなり、徐々にペースが落ちてきた。必死にペースダウンを最小限に抑えようとしてもキツくて抑えきれない。そんな時にペースダウンを抑えるのではなく、逆にペースアップしてみた。もちろんキツイけど苦しさは変わらなかった。遅くても速くてもどうせ苦しいなら、速く走ったほうが苦しい時間は短く済むと、ペースアップを続けたら気持ちもポジティブになり完全に復活した。

これは一例ですが、根性や気合いのように見える言葉にもいろいろ含まれていると最近感じています。


男子6位入賞の小原選手が語った言葉は、私がウルトラマラソンの厳しい場面で、いつも考えていることなのでとても共感した。

富士登山競走

(男子6位の小原 将寿選手 )


『この画像の7合目以降はずっときつかったけど、そんな時は、ずっと ”進めば必ず終わる” と頭の中で繰り返していましたね。苦しくて止まってしまうと、身体や気持ちの緊張感が切れてしまいそうで、辛いからこそ進み続けないといけない!と動き続けました。』

富士登山競走

(男子6位の小原 将寿選手 )


入賞常連者である小川 壮太選手は今回も7位入賞を果たしたが、『余裕なしの全力疾走だった。』 と語っている。

富士登山競走

(男子7位の小川 壮太選手)


私が富士登山競走に興味を持ち始めたきっかけとなった江本選手は過去5回入賞し、ゴール直前まで先頭を走ったことがあるランナーだが、今回は厳しいレースとなった。私の前に現れた時には階段を上るのも厳しい状態で13位まで順位を落としていた。

富士登山競走

(男子8位の江本 卓選手)


しかし彼はこの状態から巻き返して、八合目以降を18分53秒と今回の参加者中トップの走りで5人抜いて6回目の入賞を果たした。男子入賞者のラップタイムが21分前後であることを考えると、鳥肌がたつような展開だったのだろう。

何が彼を復活させたのかは、今度聞いてみたいが、彼が巻き返して入賞できたのも、苦しい時間帯に自分にできることを淡々と繰り返したからこその復活だったのでしょう。


今回9位入賞を果たした牛田 美樹選手は、キツイ場面のことをこう振り返った。

『レース中、キツい場面はたくさんありましたが、そんな時には、とにかく自分の位置を客観的に掴むようにし、前との距離を感じながら足を進めることを意識しました。』

富士登山競走

(男子9位の牛田 美樹選手 )


『そして少しでも前のランナーとのタイムを縮めたいと強く思い、きつくても諦めず動き続けました。前との差が縮まれば、いいペースだと自分に言い聞かせられ、またそれが力になりました。』

と語った。

富士登山競走

(男子9位の牛田 美樹選手 )


今回男子10位入賞を果たした渡辺 良治選手は、レースの山場をこう振り返った。

富士登山競走

(男子10位の渡辺 良治選手)


『一番きつかったのは八合目からでした。得意の岩場で思ったよりペースが上がらず、脚が終わってしまったことを痛感したことで精神的にもガックリきましたし、脚も今にも痙攣を起こしそうだったので、思い切り走れずもどかしかったのです。』

『しかし周りの選手、特に牛田選手が故障の痛みを堪えて走っている事を知っていたので、ゴールした後、彼の前で堂々と健闘を称え合いたいから、恥ずかしい姿は見せられないという思いで頑張りました。』

富士登山競走

(男子10位の渡辺 良治選手)


今回3度目の優勝を飾った小川ミーナ選手は

『追いつかれるかもしれないという危機感を常に感じながら、必死に脚を進めた。』

と語り、そしてこう続けた。

『追い込まれた自分の姿が現れるレースだと思います。』

富士登山競走

(女子優勝の小川 ミーナ選手  PUMA RC


今回初挑戦ながら女子5位入賞を果たした鈴木 遥選手はこう語った。

富士登山競走

(女子5位の鈴木 遥選手)


『キツイ場面ではとにかく次のポイント(何合目か)までと頑張りました。そして後ろにいる女性に追い付かれないこと、追い抜いた時には少しでも引き離すことを考えて進みました。』

富士登山競走

(女子5位の鈴木 遥選手)


入賞こそできなかったが、3時間08分58秒の自己ベストで23位に入り、自身の壁を破ったという曽根 新選手は厳しい場面をこう振り返った。

富士登山競走

(自己ベストで23位に入った曽根 新選手)


『苦しいのは皆同じです。誰しも苦しさから逃げたくなりますが、それを乗り越えた先に待つ山頂のゴールはただただ感動でした。』

彼はレース中、私を見つけると、手に持ったアスリチューン・エナゲインを振りながら、『これ最高に効きます!!』 と話してくれた。

厳しい状況で自分をサポートしてくれるアイテムは、彼にとって頼りになる相棒だったのであろう。

同じく入賞者ではないが、福岡国際ランナーの佐熊康生選手が私の前に来た時の様子は、明らかに変調をきたしていた。顔色も悪く意識朦朧としているかのように見えた。

富士登山競走

(初めてのトレランレースとなったスパトレイル38Kで3位入賞を果たした佐熊 康生選手)


しかし、そんな状態になっても佐熊選手は決して諦めることなく、『前かがみになり手のひらでモモを押す早歩きなら出来る。』と自分にできることを淡々と繰り返し、3時間34分で登り切った。

富士登山競走

(佐熊 康生選手)


佐熊選手と私の同級生である、渡辺 邦久選手が私の前に現れた時は嬉しかった。今回は調子が悪く思うように走れたかったと言いながらも3時間35分で走りきった。制限時間4時間30分以内の完走が難しいこのレースで制限時間より1時間近く前にゴールした彼の走りは素晴らしい。

富士登山競走

(渡辺 邦久選手)


彼はレースをこう振り返った。

『今回、序盤から調子が悪く中の茶屋〜馬返しが抜かされまくりで、もう止めてしまいたいくらい辛かった。しかし馬返しの通過タイムが最低限の目標だった1時間を切れていたので、何とか先に進むことができました。同様に5合目もギリギリAブロックの記録(1:50)を切ることができました。その後は苦しいながらも淡々と自分のペースで登ることができました。

富士登山競走

(渡辺 邦久選手)


目標タイムに届かない状態で、モチベーションを保って、自分にできることを淡々と続ける。と言葉にするのは簡単だが、それを実行するのは難しい。


先週のおんたけ100マイル(11位)と連戦ながらも、 3時間36分で走りきった小川久男選手の必死の走りも、私の脳裏に焼き付いている。

富士登山競走

(先週開催のおんたけ100マイル(11位)との連戦となった小川 久男選手)


160キロ走った翌週に、今度は3,000m登るというのは私には考えもできない。

身体の作りが違うで片付けてしまう人が多いだろうが、私は違うと思う。高い志を持って一生懸命練習している小川選手も佐熊選手同様、思うように動けなくても自分にできることを淡々と繰り返してゴールしたのでしょう。


今回トップランナーの走りを間近で見て感じたのは、苦しい場面でも自分に負けることなく、自分にできることは何かを必死に考え、そして続ける強さです。

またその自分にできることの強度が非常に高いのです。自分に厳しいのです。それは今回の画像を見ていただければ感じることができるでしょう。

トップランナーというと颯爽とした走りをイメージしますが、実際は非常に泥臭く懸命に自分自身と戦っているのです。

私を含めて大半のランナーは富士登山競走で3時間を切るような走りはできません。しかし諦めずに、今の自分にできることを淡々と続けることは気持ち次第です。

これは富士登山競走に限りませんし、ランニングにも限らないことでしょう。

また今回上位選手から、八合目関門に間に合わなかった選手まで応援しましたが、八合目関門に間に合わない時間になっても(私が見た範囲で)誰一人歩みを止めずに登り続けていました。

そんなランナーを見て、私も走りたくなりました。まずは来年エントリーし、まずはこの雲の下から五合目を目指したいと思います。

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