2014年サロマ湖ウルトラマラソン覇者 能城秀雄選手の強さについて
サロマ湖100kmウルトラマラソンが日本最高峰の100キロマラソンと言われる理由は様々ありますが、IAU100km世界選手権日本代表選考会を兼ねた大会であることから日本中から屈指のウルトラランナーが集結し非常にハイレベルな争いをすることが最大の理由でしょう。日本代表をかけてスピードランナーが集まることから序盤からハイペースなレース展開となります。2014年大会の覇者である能城秀雄選手は最初の10キロを36分03秒、42.195kmを2時間36分32秒で通過し6時間40分15秒でゴールしました。2014年は最高気温が28.1℃に上がるだけではなく、最低気温が17.9℃とスタート時から蒸し暑い過酷な大会となりました。完走率も55.8%と2013年の68.9%、2012年の75.6%と比較すると非常に厳しい状況にも関わらず、2013年大会で優勝した自身のタイム6時間37分16秒から大きく落ちることなくゴールしました。
私自身は序盤こそ前年と同じようなペースで入りましたが暑さから後半は粘りの走りができずタイムは前年より30分ほど遅くなりました。能城選手に聞いてみると去年は暑くて厳しかったですと答えてくれましたが、厳しかったのに3分遅れでゴールするのは凄まじい精神力と勝利への執着心があるのでしょう。今回なぜ能城選手の紹介をするかというと、たまたまFacebookに能城選手がアップした過去のサロマ湖の戦績を見て感動したからです。そのデータもいただきましたので合わせて紹介していきます。
まず能城選手の過去3大会のラップタイムを紹介します。これを見ただけでも凄さが分かると思います。
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過去3大会のラップタイム
区間 | 2014年 | 2013年 | 2012々 |
---|---|---|---|
上段:区間タイム 下段:通過タイム | |||
最高気温 | 28.1℃ | 23.7℃ | 14.1℃ |
最低気温 | 17.9℃ | 11.0℃ | 9.5℃ |
完走率 | 55.8% | 68.9% | 75.6% |
10キロ | 00:36:03 00:36:03 |
00:36:19 00:36:19 |
00:36:33 00:36:33 |
20キロ | 0:36:23 01:12:26 |
0:37:06 01:13:25 |
0:36:57 01:13:30 |
30キロ | 0:37:08 01:49:34 |
0:37:06 01:51:09 |
0:38:03 01:51:33 |
40キロ | 0:38:44 02:28:18 |
0:38:33 02:29:42 |
0:37:58 02:29:31 |
42.195km通過 | 02:36:32 | 02:37:56 | 02:37:39 |
50キロ | 0:40:16 03:08:34 |
0:38:30 03:08:12 |
0:38:38 03:08:09 |
60キロ | 0:42:29 03:51:03 |
0:40:28 03:48:40 |
0:40:50 03:48:59 |
70キロ | 0:44:02 04:35:05 |
0:42:57 04:31:37 |
0:41:40 04:30:39 |
80キロ | 0:42:24 05:17:29 |
0:42:49 05:14:26 |
0:41:13 05:11:52 |
90キロ | 0:43:09 06:00:38 |
0:42:19 05:56:45 |
0:42:04 05:53:56 |
100キロ | 0:39:37 06:40:15 |
0:40:31 06:37:16 |
0:41:56 06:35:52 |
順位 | 優勝 | 優勝 | 2位 |
どうでしょう?
3年間のラップを見ていろいろ気づかれたことがあると思います。私が一番感じたのはスタート時から既に暑くて大変なレースになると誰もが思った2014年が過去3年間で一番のスピードで入っています。10キロも、20キロも、30キロも、40キロも、42.195kmもすべてのポイントの通過タイムは過去最速なのです。2012年、2013年のスタート時からしばらくは涼しく非常に走りやすいですからスピードがある能城選手にしたらフル通過2時間37分台というのはさほどキツイペースではないと思います。しかし昨年はスタート時から暑いわけですからとんでもなくきつかったと思います。当然ながら気温がさらにぐんぐん上がってきた50キロ以降は2012年や2013年と比べると落ちてきています。とは言っても十分速いですけどね。そして最後の10キロはペースアップして前年の3分遅れでゴールしたのです。
私はラップを比較するまでは、過去と比べて序盤が速かったのは知りませんでした、数字を打ち込んでいて当時の能城選手の胸の内がなんとなく分かってきました。まだ本人には聞いていませんがほぼ間違いないと思います。普通はスタート時のあの気温なら絶対に厳しいレースになるのは分かっているから序盤を抑えて潰れないようレースマネジメントをしていくというのが、私のような一般的なランナーの考え方です。そういう私も昨年の序盤30キロくらいまでは過去2年間と比べて速く入りましたけどね。もしかすると能城選手が考えた序盤速く入った理由の2つのうちの1つは私と同じかもしれません。
能城選手が過酷なレースになるのが分かっていながら速く入った理由の一つは、優勝するためにライバルはおそらく抑えめに入るから中盤までに引き離してしまおうと考えたのでしょう。これは優勝を狙うランナーならタイムより勝負ですから十分理解できます。しかし当然ながら後半潰れるリスクはありますが、そこは能城選手の過去の経験から絶対に潰れないで一定のペースでは走りきれると判断したのでしょう。
もう一つの理由は多分私が序盤速めに入ったのと同じだと思うのですが、もちろんスタート時から蒸し暑かったけど、その時点では過酷な状況ではありませんでした。日差しが強くなる10時以降はさらに厳しくなるのが分かっているのだから走れるうちに走っておこうということだと思います。走れるうちに走っておけば過酷になった時の残り距離が少ないわけですからね。
もちろんオーバーペースになってしまっては後半酷いことになりますが、おそらく『無理しない範囲で無理をしたのだと思います。』
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2014年大会のレース運び
能城選手に確認したところ、戦略は上記の通りとの回答がありました。過去のサロマ湖100kmウルトラマラソンで素晴らしい走りをした小島選手(1991年、1992年優勝)、近藤選手(1995年優勝)、三上選手(1997年、1999年、2000年、2001年、2002年優勝)のレースパターンとのこと。能城選手は強い選手の走りや戦略を分析し自分のレース展開を確立したのでしょう。この分析力や洞察力があるからこそ2014年のような非常に過酷なレースでも素晴らしい走りができるのでしょう。
2014年大会の2位選手とのタイム差が気になったので調べてみました。
区間 | 能城選手 | 2位の選手 | タイム差 |
---|---|---|---|
上段:区間タイム 下段:通過タイム | |||
10キロ | 00:36:03 00:36:03 |
00:40:14 00:40:14 |
4:11 4:11 |
20キロ | 0:36:23 01:12:26 |
0:38:51 01:19:05 |
2:28 6:39 |
30キロ | 0:37:08 01:49:34 |
0:37:42 01:56:47 |
0:34 7:11 |
40キロ | 0:38:44 02:28:18 |
0:38:08 02:34:55 |
▲0:36 6:37 |
42.195km通過 | 02:36:32 | 02:43:28 | 6:58 |
50キロ | 0:40:16 03:08:34 |
0:39:20 03:14:15 |
▲0:56 5:41 |
60キロ | 0:42:29 03:51:03 |
0:39:17 03:53:32 |
▲3:12 2:29 |
70キロ | 0:44:02 04:35:05 |
0:41:34 04:35:06 |
▲2:28 0:01 |
80キロ | 0:42:24 05:17:29 |
0:42:24 05:17:30 |
0:00 0:01 |
90キロ | 0:43:09 06:00:38 |
0:43:47 06:01:17 |
0:38 0:39 |
100キロ | 0:39:37 06:40:15 |
0:44:11 06:45:28 |
4:34 5:13 |
調べて驚きました。私が勉強不足だったのですが2014年大会は能城選手の先行逃げ切りのレースと思っていたのですが、50キロを超えてから急激に2位選手に追い上げられ70キロを前にして追いつかれワッカ原生花園に入ってしばらくは背後にプレッシャーを受けながらのレースだったのです。そしてワッカ原生花園内の最後の折り返し地点辺りで最後の力を振り絞ってスパートし一気に引き離し5分13秒差をつけて優勝したのです。
サロマ湖でトップを争う選手の実力にはほぼ差はなく最後に能城選手が競り勝ったのは、もちろん強い精神力と勝利への執念なのでしょうが、緻密に計算されたレース展開によるものも大きいと思い知らされました。
ラップタイムを並べて眺めることでその時のレース風景や両者が何を考えていたのかがなんとなく想像できてしまうから面白いです。興味のある方は上位選手のラップタイムを並べてレースをイメージしてみてください。本人でないのだから、それが正しいかどうかは分かりません。しかしその時それぞれの選手はどんな気持ちで走っていたのかを考えることでレースマネジメント能力は向上すると私は考えています。
過去のサロマ湖100kmの戦績
開催年 | タイム | 順位 | 優勝タイム |
---|---|---|---|
2000年 | 7時間15分XX秒 | 6位 | 6時間27分13秒 |
2001年 | 6時間46分XX秒 | 2位 | 6時間38分50秒 |
2003年 | 6時間47分XX秒 | 3位 | 6時間38分06秒 |
2004年 | 6時間36分XX秒 | 2位 | 6時間23分00秒 |
2005年 | 7時間52分XX秒 | 35位 | 6時間49分04秒 |
2006年 | 6時間59分XX秒 | 3位 | 6時間33分32秒 |
2007年 | DNF | DNF | 6時間29分58秒 |
2008年 | 6時間46分XX秒 | 2位 | 6時間42分05秒 |
2009年 | 6時間36分33秒 | 優勝 | 6時間36分33秒 |
2010年 | 6時間46分51秒 | 3位 | 6時間39分52秒 |
2011年 | 6時間36分29秒 | 2位 | 6時間31分06秒 |
2012年 | 6時間35分52秒 | 2位 | 6時間33分32秒 |
2013年 | 6時間37分17秒 | 優勝 | 6時間37分17秒 |
2014年 | 6時間40分15秒 | 優勝 | 6時間40分15秒 |
過去14回走ってリタイア1回、7時間台が2回ある以外の11回は6時間台という非常にハイレベルなところで安定した戦績です。特にここ7回は6時間35分52秒から6時間46分51秒の10分強の狭いレンジに収まっているのです。その7年間の大会は完走率49.9%から75.6%が示すようにさまざまな気象コンディションでした。
どのようなコンディションであっても安定したタイムで走りきる能城選手の強さには驚愕を覚えます。また順位はほぼ意識せずタイムを追い求める私のレベルとは違って、常に強力なライバルと優勝争いをしているわけですからレース中に様々な駆け引きが繰り広げられています。優勝を争う選手は一か八かアグレッシブに仕掛けた結果潰れてしまうこともあります。そのようなレベルでこれだけ安定したタイムと成績を残している能城選手の強さはもはや異次元のレベルでしょう。
サロマ湖100kmウルトラマラソンを走るランナーの大半は能城選手のような走りをすることは出来ませんが、参考になることは多々あると思い紹介させていただきました。能城選手からその他アドバイスをいただけたら追記させていただきます。
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能城選手から学ぶランニングレッスン
*上記レッスンは既に終了したレッスンです。
能城選手は競技者であるとともにランニングコーチでもあります。葛飾区総合スポーツセンターでマラソン教室を担当しています。
次回開催は7月1日から9月17日の日程で全11回開催で料金は7,920円です。
コース名は『マラソン教室 〜マラソン完走のために正しい知識を身に付けます。〜』です。ウルトラマラソンを安定して速く走るヒントが得られるチャンスになるかもしれませんので、気になる方は是非スポーツセンターへお問い合わせください。
葛飾区総合スポーツセンターホームページ