ランニング中に”気持ち悪くなる”原因と対策

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ランニング中に、気持ち悪くなった経験のある方は多いでしょう。おそらく1回も気持ち悪くなったことがない方のほうが珍しいと思います。気持ち悪くなった時の話を聞くとその症状は様々ですし原因も様々だと素人ながらに感じます。ただ共通しているのは、思うような走りが出来ず悔しい結果になったということです。だいたい「気持ち悪くならなければ・・・」と繋がるか、「次のレースでは気持ち悪くならないよう対策を立てねば。」と繋がり話は終わります。

私自身『気持ち悪くなる』経験は多々ありますが、原因は様々で症状も様々です。一括りに『気持ち悪くなる』でまとめてしまうと漠然として対策が立てなくなるように感じます。思うような走りができないと『調子が悪い』という言葉を使いますが、そのくらい漠然としたものだと思います。実際『調子が悪い』中にも『気持ちが悪い』は含まれています。

頭痛や、見たくないものを見て精神的ショックで『気持ち悪くなる』こともありますが、今回は胃腸障害に絞って紹介します。

以前からこの内容で記事を作りたいと思っていましたが、発信できるほどの医学的知識はないので、ウルトラセミナー参加者 北オホーツク100キロマラソン2位入賞で紹介させていただいた、佐藤恵里医師(新松戸のクリニック けやきトータルクリニック)に、医学的見地などからアドバイスをいただきました。

佐藤さんには、『喉が乾く前に水を飲め』は危ない 〜運動関連低ナトリウム血症にご注意を〜でも、いろいろ教えていただきました。

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佐藤さんの経験

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気持ち悪くなるのは、以下に述べるような要因が複雑に絡み合い、個々の体質や状況により現れてくるものと考えられます。私は普段は大食いで、特に炭水化物や甘い物が大好きです。ウルトラマラソンはたくさんのカロリーを使うからたくさん食べねばいけないと、書籍やウエブサイトに書かれているので、これ幸いとばかりに、ウルトラマラソン前日から当日にかけて、お腹いっぱい好きな物を食べていました。

そして、レース中に嘔気で走れなくなる事を繰り返していました。何故嘔気が起こるのか?ウルトラマラソンを走るにはどうしたらいいのか?自分なりに調べてわかったこと、試したことを説明させて頂きます。

また、今回の記事に関して、日頃からお世話になっている日本医師ジョガーズ連盟の中村集先生にアドバイスをいただきましたこと、お礼申し上げます。』


佐藤さんは職業柄、レース中に体調不良になると非常に恥ずかしかったと話していました。しかし自らの体の変化を観察し、仮説と対策を立てレースを走るなかで、徐々に原因が分かってくると結果にもあらわれ、初めての100キロレースとなった北オホーツク100キロマラソンでは非常に過酷な気象条件の中完走し総合2位となりました。

ウルトラマラソンは優勝を狙うような走力のあるランナーでも内臓系統にトラブルが生じると完走も厳しくなります。私自身初めてゴールできないレースとなったスパルタスロンは、内臓トラブルが主な原因です。

ウルトラマラソンは根性や気合が大半と思っている方も少なからずいると思いますが、内臓トラブルを抱えた状況で根性だけで先に進むのは大変です。レース前に対応できることは対応し、レース中に発生したなら軽い段階で対処すれば気持ちよく走ることができます。結果もついてくるでしょう。

気持ち悪くなる代表的な原因

ランナー

気持ち悪くなる胃腸障害として考えられる代表的な原因は次の3つです。

それぞれについて、原因と対処法などを紹介します。




胃が荒れる

ストレスによる胃酸分泌過多から起こる「急性胃粘膜病変」

胃腸の動きが止まる

運動により血液が筋肉に分布することで、相対的に消化管が虚血(血が足りなくなる)を起こし、「運動障害」を起こす

「運動関連低ナトリウム血症」による症状

身体から失われる塩分に対して、補給する水分濃度が薄いため、血液が薄まる

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胃が荒れる

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ストレスとは、精神的なものだけではなく肉体的なものも重要です。スピードを出す、長い距離を走る、という事は身体にとってストレスなのです。ストレスを感じると胃酸が多く分泌され、胃の粘膜を痛めてしまいます。重症の場合は胃の粘膜から出血を起こす事があります。



~対処法~

❶前日は睡眠を良く取り、自律神経の働きを整える。胃粘膜を刺激するカフェインや辛すぎるものはレース前日から避けます。

❷関節の痛みに使う消炎鎮痛剤(市販ではロキソニンなど)は胃粘膜障害を起こす原因薬剤の代表です。関節痛があり、治療のためロキソニンを飲んでいる方はウルトラマラソンに出ることは控えた方が良いかと思います。最近は、レース中痛みが出たらロキソニンを飲むランナーが増えていますが、これを繰り返していると胃をやられます。また、ロキソニンを飲み続けると腎臓の障害を引き起こす可能性も高まります。消炎鎮痛剤は病気や怪我の方に処方する薬剤ですので、レースに出るような方が内服するのは避けるべきと考えます。

❸それでも毎回起こす場合は、胃酸分泌抑制薬(市販ではガスターなどが該当)の予防内服を勧めます。他にも種類がありますので、医師の診察を受ければ処方が可能です。その場合、”胃酸を抑える薬を希望”と伝えてください。ただし、この場合は自費診療になる可能性もあります。

❹精神的なストレスも要因になります。誰でもレースは緊張するものですが、緊張している自分を客観視する余裕を持てたらよいですね。

❺良質の油やタンパク質は胃粘膜を保護する働きがあります。豆乳やチーズなどをレース前に少量摂取するのも一つの方法です。ただし摂りすぎは良くありません。

胃腸の動きが止まる

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レース中に筋肉に血液が移動して、相対的に胃腸に血が行かなくなるのは、ある程度は仕方がないことです。体質により個人差があり、起こりやすい方と平気な方がいるのも事実です。この症状に関してはスタンダードと言える治療方法がなく、私自身もこのタイプの嘔気に随分苦しめられました。その経験に基づいて感じたことを私見になりますが紹介いたします。

~対処法~

❶スピードや消化管の刺激に慣れる

過去の経験から”オーバーペース”と”下り坂での衝撃”で症状が出やすくなる事に気付きました。普段からスピード練習で、速いスピードに身体を慣らしておきました。また皇居や赤坂御所で下り坂を勢いよく走る練習を行い、胃腸を振動させる刺激に慣れました。下り坂でお腹に振動が伝わりにくいフォームを身につけることも大切です。ブレーキをかけるような走り方では脚の刺激がそのまま腹部に伝わってしまいます。

❷脱水を避ける

冬場より暑くなり始めの春、夏のレースで起こる事が多く、脱水の関与も大きな要因です。脱水で血液が濃縮され血管の中の水分量が減り、毛細血管の抹消まで充分に血液が届かなくなります。ただでさえ筋肉に血液を取られている消化管が更に血液不足となり、動きが悪くなったり胃粘膜が荒れたりします。レース中は必要量の水分と塩分の補給を行う事が必要です。

ただし、後述しますが水分だけを多く飲むのは逆効果になります。身体に水分を貯めるには、水だけではなく塩の補充が必須です。喉がとても乾いてからエイドに行くと、味の薄いドリンクを何杯も飲んでしまいますが、それは胃腸に刺激を与えるだけではなく、後述する低ナトリウム血症に繋がります。 また一気飲みをするとその刺激で下痢や嘔気を誘発することがあります。エイドの間隔にもよりますが、私は一回に紙コップ2杯までにし、それ以上は飲まないようにしています。

また、当日朝はカフェインの入ったコーヒーや緑茶を飲むと尿が多く出てしまい脱水の原因になり得ますので、避けたほうが無難です。カフェインの持続時間は5~7時間と言われていますので、朝飲むと日中は作用が継続してしまいます。

❸消化管の運動を良くする

夜に脂っこいものを多く取って寝ると、翌日胃もたれするのは皆様もご経験があると思います。油脂は消化に時間がかかり、腸管内に長時間留まります。レース前日夜に油脂を沢山取ると翌日まで消化管は休まらず、一晩中仕事をしている状態で疲れてしまうため、私は食べないようにしています。また、油脂だけではなく糖分の高い物も胃に留まる時間を長くしますので、レース前、レース中には甘いジュース、糖分の高い補給食(チョコや大福、飴など)も少量に留めました。 ただし、個人差が大きい為、経験上問題ない方は食べても大丈夫です。

私自身は元々便秘がちで、腸管の運動がかなり悪い方なので、前日夜は腸管を休ませるために油脂に限らず食事を食べ過ぎないようにしています。レース当日朝はご飯やパンに加えて前述したように少量の油脂とタンパク質も摂取しています。また整腸剤(市販ではビオフェルミンなど)を日常的に内服して腸内環境の改善に努めています。

❹ウエストポーチに気を付ける

これも個人差がありますが、ウエストポーチで胃の下部を締め付け、揺れによる刺激が与えられることも誘引の一つになり得ます。長時間のレースでは補給食の携帯が必要になりウルトラマラソンではポーチを使うことが多いです。

あらかじめ当日使うだけの重さを入れたポーチを使って練習をして、揺れや締め付けを確認しておくとよいでしょう。私自身、嘔気で走れなくなったレースを振り返ると全てジェルを沢山入れたポーチを付けていた時でした。そのことに気づいて以来、ポケットの沢山ついたランニングパンツに最低限の補給食を携帯するようにしました。不足分はスペシャルドリンクにジェルを付けたり、ドロップバッグを利用することで対応しています。

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本サイトより

佐藤さん、詳しく分かりやすいアドバイスありがとうございました。

今回、胃腸障害の原因を大きく3つに分けましたが、胃腸が荒れたり、胃腸の動きが止まったことのない、いわゆる内臓の強い(胃腸の強い)ランナーでも、3つ目の低ナトリウム血症のリスクは多いにあります。

今回紹介した胃腸障害の原因を理解し、そうならないように準備をしても気持ち悪くならない保証はありません。ただ備えをすればリスクは減少します。5回走れば4回気持ち悪くなるのと、2回で済むのはどちらが良いですか?聞くまでもないと思います。また気持ち悪くなったとしても走れないくらい気持ち悪かったのが、我慢できる程度の気持ち悪さになるならより実力に近い走りができるでしょう。

そのため大事なことがあります。上で少し触れましたが、『気持ちが悪い』『調子が悪い』で終わらせないで欲しいのです。例えば、どのように調子が悪いのか?どこが調子悪いのか?なぜ調子が悪いのか?どうしたらよかったのか?など自分自身で考えてみることです。考えて実行する人と、何も考えないで嘆く人では大きな差が生じます。

アドバイスしてくれる人がいたとしても、自分自身で考えた上で、質問してみてください。予想通りの答えでも、予想外の答えでもより深く記憶に残ります。


最後に、ちょうどこの記事を書き終えて佐藤さんにメッセージを送ったところ、佐藤さんから嬉しい報告がありました。

一部紹介させていただきます。

『先ほど、白山白川郷ウルトラマラソン終わりました。まだ会場におります。今回のタイム設定ですが野辺山ウルトラ対策のセミナーに参加した際に計算し、野辺山なら11時間20分程度で走れるかもしれない計算になっていました。白山白川郷は累積標高2530mと野辺山より高いのですが、コースが走りやすく野辺山よりは少し難易度が低いと聞いていたので、11時間台前半を目安に考えてました。そして昨年の女子のリザルトを見て、11時間台前半の方のラップを見て参考にしながら走りました。85kmくらいから脚が動かなくなり失速してしまいましたが、想定通りのタイムでゴールできました。胃腸は今回も全く問題ありませんでした!今回は総合5位。天候は最高だったため、他の方も皆さん良いタイムでした。難易度が高いコースでの入賞は、北オホーツクの2位と同じくらい価値を感じています。新澤さんのセミナーのおかげです。ありがとうございました。』


7月に100キロに初挑戦し2位。そして今回はよりレベルが高く参加者数も多い大会で5位入賞。2回走って、連続入賞は素晴らしいです。おめでとうございます。