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そのとき叶え得る最大の目標を最後まで立て続けた

こっから、本当に頑張った。ここまでも、本当に頑張って来たけど。本当の本当に、頑張った。吐き気を堪えて、ワッフルを口の中に詰め込む。ジェルを飲めるだけ飲み込む。そして、走った。全身全霊。たぶん、この文章からウケる印象って、歯を食いしばって痛みを耐えて目を見開いて・・・って感じかもしれないけど。実際は、すごく嬉しかったし、すごく楽しかったんです。

まだ、自分に攻める気持ちが残っていることが。そして、その思いに応えてくれる身体があることが。そして、UTMBの舞台で走っていることが。もちろん、信じられないくらい辛いし、痛いし、苦しいけど。でも、これが僕の夢だったのだから。本当にすごく楽しかった。

突然、ヤギ？みたいのが出て来て、こっちがビックリしているのに、ヤギが平然としているから、「ちょっとはビックリしなさいよ！」ってヤギに話しかけて、それでも知らん顔してるから、「あっ・・・フランス語じゃないと通じないか〜」って1人でニヤニヤしてるような。ちょっと危ないテンション。そのくらい、楽しかったな〜。全然伝わらないかもしれないけど、ものすごく長くキツかった登りがいよいよ終わりを迎え、ついに山頂部にたどり着いた。軽い登り基調の山頂部を走る。コースマップで観るよりも長く感じたけど、ここも出来る限り走った。そして、頂上であるLa Tête aux ventsのチェックポイントに。

みえた。シャモニー・・・。

まだ、遠いけど。自分は、ずいぶんと高いところにいるみたいだけど。あそこに戻ると、これレースが終わる。終わってしまう。

ここから、下り。下りが本当に辛かった。細かく細かく、小さなステップで走る。岩場の下りが終わり、La Flégèreのエイドへ。これが、最後のエイド。残り8kmの下り。明るい内に、シャモニーに帰りたい。その思いだけで、とにかく走れる限りで走り続けました。この下りも、本当に頑張ったな〜・・・。なんとか、あの頑張りっぷりを文章で表現出来ないものかと考えてみたけど、あの時は何も考えずに、「・・・ぃぃぃぃ〜」って感じで走っただけでした。「明るい内に、シャモニーに帰りたい」最後の下りでは、この目標に向かって走っていました。

でも、本当はモンテ峠の途中から目標はどんどん書き換えられていきました。元々の目標は24時間台。それが無理だと分かり、25時間半以内。それも厳しくなってきたので、26時間を切る。それすらダメならば、明るい内に、シャモニーに帰りたい。

僕は、ずっと諦めなかった。24時間台の目標は、24時間50分まで信じて走っていましたし、26時間切る目標も、25時間55分まで信じ続けて、「・・・ぃぃぃぃ〜」って走っていました。妥協と言えば、そうなのかもしれませんけど。でも、そのとき叶え得る最大の目標を、最後まで立て続けて走りました。

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その瞬間。まるで地鳴りがするくらいの大歓声が僕を迎えた。

そして、太陽がアルプスの山々の影に隠れ始めた時。長い長い道のりが大きな円を描いて。ついにスタート地点のシャモニーの街へと戻ってきました。見慣れた川沿いを走る。右手に、僕の泊まっているホテルが見えて来た。帰ってこれた。道を行く人々が、みんな歩を止めて僕を祝福してくれる。これまでの人生で感じたことがないような、圧倒的な安堵。橋を渡り、ホテルの前を通り過ぎ、街の中心地へと入って行く。道の両サイド。たくさんのハイタッチを求める手が迎えてくれる。手を出してくれた方、全員とタッチしたくって、ここからゆっくりゆっくりと行くことにした。オープンテラスのカフェの前で、小さな子供達が手を出してくれる。立ち止まって、屈んで子供達とハイタッチすると、テラスに座っていた方々から、まるでハリウッド俳優におくるかの様な拍手と声援が。僕が笑って手を振ると、さらに大きな声援が。

・・・気持ちいぃ〜！！こんなの味わったことない！！本当に凄かった！！本当に本当にたくさんの方々が、自分の親友に声をかけるみたいに、「本当にオマエはよくやった！すごい！！」っていうようなことを言ってくれる。全然、何言っているのか分からないけど、言葉が分からないって、そんなことは実は大した問題じゃないみたい。そして、夢の中みたいなたくさんの祝福に包まれて、気が付くと僕は教会へと続く曲がり角にいた。目の前に、ゴールゲートとその向こうに教会が見える。26時間前、スタートゲートとして見送ってくれたものが。今、ゴールゲートとして、迎えてくれている。

UTMB。夢だった。ずっとここを走りたいって思っていた。ここにくるために走り続けた。ついに・・・。涙が溢れて来て、たまらず下を向いた。

その瞬間。まるで地鳴りがするくらいの大歓声が。あまりにすごい歓声に思わず、ビクッ！ってなってしまった。 顔を上げると、ゴールへと続く道の両サイドを埋め尽くす応援の方々が、全員僕に向かって、割れんばかりの祝福の声と拍手を送ってくれている。この瞬間、僕が世界中で一番輝いているみたいに。

本当に、凄過ぎる。「あの中を走れるんだったら、どんなに辛い思いでもする」って鏑木さんがおっしゃっていた意味。やっと、分かりました。これなんですね。最後は、歩きました。別に深い意味はないですけど。なんとなく、もったいなくって。

26時間22分29秒。

長い長いレースが、ついに終わりました。

年を重ねても、夢や目標を追いかけたい。

やっと、書き終えました。

最後まで読んでいただいたみなさん、本当にありがとうございました。こんなに長いのを、しかも一ヶ月もかかってしまったこんなのを、最後まで読んでいただいたみなさんのその粘りがあれば、間違いなくUTMBを完走出来ると思います。

このUTMBが、僕の夢でした。このレースに出場することが、自分の最終目標でした。そのために、何も疑わずに、ただただ走り続けてきました。少しずつ長く走るようになって、すこしずつ速く走れるようになって。ただのサラリーマンランナーの僕は、いつのまにかトップ選手と言っていただけるようにまでなりました。それも、このUTMBに出たいっていう夢が、目標があったからです。今回、その最終目標を達することが出来ました。これで、走ることを辞めます。

なんつってね〜。完走記の中でも書きましたが、走りながら新しい目標が、ドンドン出て来たので、とりあえず今度はそれを追い掛けたいと思います。

夢とか目標とか、年を重ねてくるとだんだんそういうのって恥ずかしくなってくる気がするけど。僕はまだまだ恥ずかしがらずに、そういうのを言い続けていきたいと思います。とか言う僕も、現在脚を怪我しており、今日久しぶりに走ってみたら、500mくらいで痛くて走れずで。ちょっと気持ちが落ちていたので。自分でこの完走記を書いて、あの時にモンテ峠で考えたことを思い出して、ちょっと気持ちが復活して来た感じです。

・・・完・・・

画像協力： Masatoshi Obara , Mayumi Taguchi , Young-Ok Cha , Edoichicoach Takatsu