フルマラソンでは痛くならないのに、ウルトラだと30キロで痛くなる理由

ウルトラプロジェクト

ウルトラセミナーは、2時間のセミナーですが、お伝えする情報量が多いので質疑応答は会議室の鍵を返してから、フリースペースで受けたり、近くのアスリート食堂で食事をしながら受けるようにしています。せっかくお越しいただいたのだから腑に落ちないことは腑に落おとしてから帰ってほしいのです。(セミナー翌日以降に受けた質問もしっかり回答させていただいています。)

5月17日のセミナー後も全員残ってたくさんの質問を受けましたが、タイトルの質問を受けたので紹介します。

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質問の内容

『柴又100kmを2回、今年はチャレンジ富士五湖71kmを走りましたが、フルマラソンでは痛くならない腸脛靭帯が30kmに届かないうちに痛み出してしまうがなぜか?』

質問者の走力など

Wさん 男性 ベストタイム フルマラソン 3時間11分30秒 100キロ 11時間30分

私の回答

普通に考えればフルマラソンを走るより短い距離で脚が痛くなるのはおかしいですが、そのような方は結構います。そのようなケースの多くはペースが遅すぎることが原因です。ウルトラマラソンはフルマラソンよりは遅く走りますが、遅すぎると疲れます。

その方に質問しました。(事前アンケートでフルマラソンは3時間11分と回答をもらっています。)

「フルマラソンの平均ペースはキロ4分30秒くらいですから、普段ペースを意識しないで気持ちの良いペースはキロ5分15秒くらいではないですか?そしてウルトラマラソンの時にはキロ6くらいで走っていませんか?」

答えは全くその通りでした。キロ6を少し超えて走っていたようです。

続けてこのようにお伝えしました。

「気持ちが良いペースより、1分遅いペースで走るとフォームはどのようになるか分かりますか? Wさんの走りを見てないから正確なことは分かりませんが、スピードが出ないように走っているのです。多分、フルマラソンを走る時より身体は棒立ちに近い状態か後傾でしょう。なぜならフルマラソンを走るときのような角度で走ればペースは上がります。キロ1分遅く走るのは難しいです。簡単にいうと、前に進まないように走っているのです。本来であればフルマラソンの距離を進んでいるはずが30キロしか進んでいない状態なのですから痛くなってもおかしくありません。いつもと違うフォームで走っているのですから、いつも痛くならないところが痛くなるのも不思議なことではありません。また時間で考えてみてください。フルマラソンは3時間11分でゴールしていますが、キロ6分ちょいで30キロ走るのも同じくらいの時間がかかります。それが理由だと思います。」

Wさんは納得していただきました。

『100キロマラソン ゆっくり入ると疲れますよ。』で書きましたが、ゆっくり走ると疲れるのです。

Wさんはチャレンジ富士五湖71キロは7時間40分ほどかかってしまいましたが、原因はゆっくりすぎが原因なのです。この記事を書くにあたり、ラップを確認しましたが、入りの10キロは62分近くかかり、その後少しペースを上げたけど、30キロで腸頚靭帯が痛くなったのでしょう。キロ6分30秒ペースに落ち、そしてキロ7分も保てなくなりました。フルマラソンのタイムを考えると後半失速するなら分かりますが、中盤から失速したのは本人も納得いかなかったでしょう。

ではどのくらいで走れば良いのか?

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同じ100キロでもコースによりペースは変わりますが、今回のセミナーはサロマ湖ウルトラマラソン対策セミナーなので、サロマ湖ウルトラを走る際の設定ペースを全員に作ってもらいました。コンディションの良かった2015年と、悪条件であった2014年の全出走者のデータを分析した数値をもとに、ゴールタイム30分ごとに、10キロごとラップの指標を作成し、条件の良い時のペースと、悪いときのペースを考えてもらいました。

なぜ2015年と2014年の2年間で指標を作ったかというと、2015年は過去最高の完走率で、2014年は近年で最低の完走率だったからです。

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その指標をもとにいったんベースになるペース設定を作ってから、セミナー参加者のタイプにより調整してもらいます。

初めて走る方は、そんな速くて良いのか?そんなペースで最後まで持つのか?と驚き質問される方は多いですが、もっとゆっくり入っても、最後までペースを維持することは困難です。

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Wさんは、サロマ湖ではサブ10を狙っていますが、セミナーでお伝えしたことを実行すれば、気温が非常に高くなるなど悪条件でなければ十分可能です。頑張ってください。

Wさんの腸頚靭帯がいたくなった時の走りを再現してみた。

セミナー後の質問の回答は上記内容ですが、今朝、Wさんが腸頚靭帯が痛くなった状態を試してみました。Wさんの走っている姿を見たことがないので完全に推測ですが、多分合っていると思います。

まず気持ち良いペースで走ってからペースを30秒くらい落とします。その時どのようなフォームになるか?腰が落ちる方もいるでしょうが、私は上体が少し起きました。もっと落とすとさらに上体は起きました。そして気づいたのですが、骨盤が開いた状態になりつま先が外側に開いていました。

試しにつま先を内側に向けてみたところ、骨盤は閉まり骨盤は前傾し、上体も前傾しました。(私の場合は足首や膝、股関節など下半身すべての関節が硬いのでつま先だけ内側を向けることはできないので骨盤も閉まりましたが、関節の緩い方はつま先を内側に向けようとすると、つま先だけ内側を向いて膝はそのまま正面を向いている状態になるかもしれません。)

つま先を内側に向けるのが良いわけではなく、基本まっすぐが良いですが、今回は実験的に行ってみたのです。

話が逸れそうなので、戻しますが、Wさんの腸頚靭帯が痛くなった時の状況を推測するに、『気持ち良いペースよりキロ1分くらい遅く走る→上体が起き上がる、もしくは後傾気味になる。→骨盤が開く→つま先が外側を向く(いわゆるガニ股)→接地のたびに膝の外側に負荷がかかる→腸頚靭帯が痛くなる』だったのではないかと思います。

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その他感想・質問など

(Sさん)レース途中で少しでもスピードを落とすことは負けではないと理解できた。

『本日も大変素晴らしいセミナーをありがとうございました。前回、客観的指標に基づいた内容に感銘を受け、今回更にその思いを強くしました。印象深かったのはI様と新澤様のラップ比較です。ランナーは自分に負ける事を許せない方が多いので、結果的に限度を超えるまで頑張り続け、ゴールまでに力を100%出し尽くしてしまうから途中で潰れてしまう。新澤様のラップは、客観的に気候やご自身を観察して、ゴールまでどのように力を配分するかを考えながら走るので、疲労を感じたら絶妙にご自身をコントロールしてスピードを落とすため、ゴールにて100%〜それ以上の力を出せるのだと感じました。レース途中で少しでもスピードを落とすと、多くの方は自分に負けた気分になるかもしれません。しかし本日のセミナー内容、特にペース配分を理解していれば、必要な事なのか、そうでないのかを判断する事ができると感じました。後は実際に100kmを走って、知識を経験に結びつけたいと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。』

Iさんとの比較とは

サブ9を狙ってサロマ湖ウルトラに4回挑戦したが、9時間の壁に跳ね返されたIさんは、今年こそサブ9と2月22日のセミナーに参加しました。その後、サロマ湖を待たずして、大阪淀川100Kでサブ9を達成しました。そのレースについてはウルトラセミナー参加者が念願のサブ9達成!!で紹介させていただきました。

そのIさんが参加したセミナーに合わせて本人の了解を得て作成した資料の一部を今回のセミナーでも使用しました。

  

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私とIさんの10キロごとラップを比較して、Iさんがサブ9できなかった理由を説明したのですが、Sさんにはこの部分が響いたようです。


(Hさん)ペース設定やエイドの過ごし方が分かった

昨日はタメになるお話をたくさん、ありがとうございました!気になってたペース設定やエイドでの過ごし方など目からウロコだらけでした。頂いた資料を読み返して自分のモノにしていきたいと思います。

(Sさん)ザックがダメな理由が分かりました

『昨日はありがとうございました。とても参考になりました。サロマの前に練習のつもりで柴又もいれてますので早速今回出してみたペースを試してみます。質問です。ウルトラの時はウエストポーチは揺れてストレスとなるのでトレラン用のベストで走ってました。暑いときはベストも良くないとのことでしたが補給食、ジェル等はどのように携帯されていますでしょうか?』

セミナーではザックのデメリットを話しました。特に暑いコンディションであれば、背中に熱がこもるザックは体温上昇につながるのでよくありません。サロモンのほぼウエアのようなバックバックであればまだ良いのですが、5キロごとにエイドのあるロードレースでザックを持つほどの荷物はないと思いますし、もしかしたら使うかもしれないアイテムを持って走るのは暑さだけではなく重量面や擦れ、重心が下がる、腕振りがしにくいなどデメリットが多いです。

Sさんの質問には『例えばノースフェイスのウエストに収容できるショートパンツなら6個くらい重量バランスを考えて入れれば大丈夫です。そしてドロップバッグで補充します。ウエストポーチが揺れるのは、重量バランスが悪いのです。最近は前後に入れられるタイプや腰ベルト式のモノもありますので試してください。私は筒状のフリップベルトを使ってます。』と回答させていただきました。

(Nさん)もっと高い目標にすることにしました

タイム設定を計算してみると、その日の気象条件や体調にもよりますが、もうちょっと冒険してみても良いということがわかりました。アスリチューンは週末の日曜日に試してみます。

今までのウルトラセミナー参加者の感想など

ウルトラセミナー参加者の声を紹介させていただきます。

経験論だけではなく客観的な指標に基づいたevidence based medicineという考え方のセミナーであった。

『本日は大変勉強になるセミナーを聴講させて頂き、ありがとうございました。医学においては、いわゆる経験論だけではなく客観的な指標に基づいたevidence based medicineという考え方が大事だと言われています。新澤様の講義はまさにevidence basedで、大変納得できるものでした。これから奥武蔵やその他のセミナーにも都合が許す限り参加させて頂きたく存じます。・・・』

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良い点も悪い点も自分が無意識にやってる事を改めて知ることができた。

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『本日は為になるセミナーありがとうございました!良い点も悪い点も自分が無意識にやってる事を改めて知って、以降の大会に活かせそうです。・・・』

データ解析が緻密で、経験に基づく話もしていただいた。

『データ解析が緻密で、24時間走の際のお話もしていただいておやさしい語り口に かぶりつきで座っていて何度もうなづいてしまいました。アスリチュン購入特典もあったり、アスリチューン「隼」の三上さんもおいででした。充実の一日でした。・・・』

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フルマラソンの底上げをしたくなった。

フル4時間40分の私は、野辺山の具体的な数字にはとても追いつきませんが、レースへの心構えやペース設定などとても参考になりました。また講習会に出てなおいっそう、タイムの底上げをしたくなりました。

新しい発見や気づきがあった

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仕事で途中から参加になってしまったのが悔いが残りましたが、ウルトラマラソンについての知識、なるほど!と思う事や発見が多くて楽しかったです。

レース展開をイメージできるきっかけになった

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コースの様子が全く分からずにいましたが、タイムと合わせて考える事でイメージ出来そうな気がします。馬越峠を全歩きにしない工夫もためになりました。

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