まず、日本の女子マラソンの記録が停滞していて2時間20分を切れないのが不思議だという記事を先週から書き始めていたところ、ヒューストンマラソンで新谷仁美選手が2時間19分24秒の日本歴代2位の記録を打ち立てました。途中まで記事を作っているので、そのまま書き、今回の新谷選手の記録がでてから加えたところは追記という方式にしていきます。
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大阪国際女子マラソンの海外招待選手3名が発表されました。招待選手を決定する責任者が2時間17、18分台の選手を招待することもできたが考えたが、今回は2時間20分台の調子の良い選手を揃えたと書いた記事を読みましたが、この辺りからも女子マラソンの停滞をなんとかしたいという日本陸連の考えが分かります。日本人選手がギリギリ競えるレベルの海外選手との切磋琢磨により2時間19分台を出して欲しいということでしょう。
今回はさらにタイムが出しやすい新コースに変更されました。瀬古利彦・日本陸連ロードランニングコミッションリーダーは新コースについて「折り返しがなくなり、スムーズに走れるコースになった。2時間19分台が出る高いレベルのレースになってほしい。」と会見で答えています。
日本の女子マラソンは2005年に野口みずき選手が2時間19分12秒の日本記録を出してから、誰も2時間20分を切っていません。
ただ、陸上競技の日本記録を見れば、オリンピック種目であっても昭和の時代から更新されていない種目もあるし、10年、20年更新されていない種目はありますが、女子マラソンほどは着目されていないような気もします。
その理由は、女子マラソンは、かつてオリンピック金メダル獲得や、世界記録更新など日本のお家芸の種目であり、国民からの人気も高く、日本陸連も力を入れている競技だからでしょう。
高橋尚子選手や、野口みずき選手は凄い選手だったことは言うまでもありませんが、さまざまな観点から考えると、なぜ日本記録が更新できないのか?なぜ2時間20分が切れないのか?不思議とさえ感じます。
さまざまな観点と書いたので、それらを簡単に書いていきます。
まず、現在の歴代6位はこちらです。
タイム | 氏名 | 大会名 | 開催年 | |
1 | 2:19:12 | 野口 みずき | ベルリン | 2005 |
2 | 2:19:41 | 渋井 陽子 | ベルリン | 2004 |
3 | 2:19:46 | 高橋 尚子 | ベルリン | 2001 |
4 | 2:20:29 | 一山 麻緒 | 名古屋ウィメンズ | 2020 |
5 | 2:20:52 | 松田 瑞生 | 大阪国際女子 | 2022 |
6 | 2:21:17 | 新谷 仁美 | 東京 | 2022 |
日本記録どころか、歴代3位までが20年ほど昔の記録なのです。全てベルリンマラソンで出された記録ではあるけど、近年でも世界レベルに追いつこうとベルリンマラソン含めた高速レースに日本の有力選手が挑んでいるが歴代記録上位に入るような結果は出ていません。
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種目特性とレベル推移
まず、考えなければいけないのは、『種目特性』と『レベル推移』です。そもそも日本人が世界レベルで競うことが難しい種目もあるし、また世界的にも記録が伸びていない種目もあります。
その観点で考えると、女子マラソンはオリンピック金メダルや世界記録を出した種目であり種目特性は高い。もちろん当時はケニア、エチオピアなどがまだ本腰を入れる前であり、今それらの国に変わって日本人が世界一になることは期待しすぎだと思うけど、日本人が20年近く前に出した記録は更新して欲しい。またマラソンのレベル感に関してはここで説明するまでもなく、男女ともに、トップアスリートだけではなく、市民アスリートレベルでもタイムは大きく向上しています。日本人男子のレベル感は20年前とは大きく変わり、変わってないのは女子だけなのです。
男子の歴代6位はこちらです。
タイム | 氏名 | 大会名 | 開催年 | |
1 | 2:04:56 | 鈴木 健吾 | びわ湖毎日 | 2021 |
2 | 2:05:29 | 大迫 傑 | 東京 | 2020 |
3 | 2:06:11 | 設楽 悠太 | 東京 | 2018 |
4 | 2:06:16 | 高岡 寿成 | シカゴ | 2002 |
5 | 2:06:26 | 土方 英和 | びわ湖毎日 | 2021 |
6 | 2:06:35 | 細谷 恭平 | びわ湖毎日 | 2021 |
中々破れなかった高岡選手の2時間06分16秒は今でも凄い記録であることは間違いありませんが、2021年のびわ湖毎日マラソンでは鈴木健吾選手が2時間04分台を出し、4人が2時間06分台を出したように、最近では気象コンディション次第で2時間06分台を出す選手は少なくありません。
実業団時代に2時間11分で走っていた選手に聞いても、厚底カーボンシューズの誕生・普及で以前と比べて3分くらいタイムの相場観のようなものが変わったと話している。
2時間10分と2時間07分は2.3%違うので、3時間で考えると4分少々の差となる。市民ランナーでも以前は女子ランナーがサブ3をするのは非常に困難で難しかったが、この4、5年間で一気に増加した。3時間05分は安定して切れるけど、中々サブ3できなかったランナーの多くがサブ3ランナーとなり、2時間50分切りを目指す市民ランナーも少なくない。
また以前は女子で2時間30分台で走れるのはほぼ実業団選手だけでしたが、今ではトップレベルの市民ランナーは2時間30分台どころか2時間30分を切る選手も続々と誕生しています。もちろんシューズの影響は大きいけど、ランニングエコノミーの向上のためのフォーム改善や、全身の筋力強化など総合的に走力アップを図った結果です。
そのような状況にあって、女子のトップレベルだけが伸びていないのだから日本陸連がヤキモキするのもよく分かります。
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他の長距離種目は伸びている
マラソン以外の長距離種目について調べてみると、福士選手や渋井選手などレジェンド選手は今なお上位にランクされていますが、中々破ることができなかった記録が近年破られています。
5000m
タイム | 氏名 | 開催年 | |
1 | 14:52.84 | 廣中 璃梨佳 | 2021 |
2 | 14:53.22 | 福士 加代子 | 2005 |
3 | 14:55.83 | 新谷 仁美 | 2020 |
4 | 14:59.36 | 萩谷 楓 | 2021 |
5 | 14:59.93 | 田中 希実 | 2021 |
6 | 15:02.48 | 木村 友香 | 2021 |
10000m
記録 | 氏名 | 開催年 | |
1 | 30:20.44 | 新谷 仁美 | 2020 |
2 | 30:39.71 | 廣中 璃梨佳 | 2022 |
3 | 30:45.21 | 不破 聖衣来 | 2021 |
4 | 30:48.89 | 渋井 陽子 | 2002 |
5 | 30:51.81 | 福士 加代子 | 2002 |
6 | 31:09.46 | 川上 優子 | 2000 |
ハーフマラソン
記録 | 氏名 | 開催年 | |
1 | 1:06:38 | 新谷 仁美 | 2020 |
2 | 1:07:26 | 福士 加代子 | 2006 |
3 | 1:07:43 | 野口 みずき | 2006 |
4 | 1:07:55 | 鈴木 亜由子 | 2019 |
5 | 1:08:03 | 五島 莉乃 | 2022 |
6 | 1:08:11 | 赤羽 有紀子 | 2008 |
こうやってみると、ハーフマラソン1時間06分38秒の記録を持つ新谷仁美選手が壁を破る最有力選手になりそうです。
新谷選手のタイムをVDOTで計算すると、ハーフマラソンのタイムを入力し、同等のマラソンのタイムを調べると2時間19分27秒、10000mのタイムで計算すると2時間19分54秒という数値が出ました。日本記録までは届かないけど、2時間19分台という絶妙なタイムが算出されたのです。
(追記)まさにヒューストンマラソンの結果は2時間19分24秒と、上記で算出したタイムと極めて近いタイムとなりました。
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世界との差
高橋尚子選手が世界記録、そして女性初の2時間20分切りをしたのは2001年9月30日で、1週間後にはキャサリン・ヌデレバ選手が更新した。
タイム | 樹立日 | 氏名 | 国 | 大会名 |
2:20:43 | 1999/09/26 | テグラ・ロルーペ | ケニア | ベルリン |
2:19:46 | 2001/09/30 | 高橋尚子 | 日本 | ベルリン |
2:18:47 | 2001/10/07 | キャサリン・ヌデレバ | ケニア | シカゴ |
2:17:18 | 2002/10/13 | ポーラ・ラドクリフ | イギリス | シカゴ |
2:15:25 | 2003/04/13 | ポーラ・ラドクリフ | イギリス | ロンドン |
2:14:04 | 2019/10/13 | ブリジット・コスゲイ | ケニア | シカゴ |
その翌年に世界記録を更新したポーラ・ラドクリフは、2003年に2時間15分25秒と当時としてはもう破ることは難しいと言われるタイムにまで引き上げた。その記録が更新されるまで16年間を要し、2019年にブリジット・コスゲイ選手が2時間14分04秒のタイムで世界記録を更新した。
日本では高橋尚子選手の記録を、渋井陽子選手、野口みづき選手が更新すると、2005年の2時間19分12秒を最後に止まっている。そして世界記録はその5分以上も上に行ってしまった。
そして、現在では2時間14分台、2時間15分台の歴代記録をもつ選手はポーラ・ラドクリフ、ブリジット・コスゲイ以外に2名であるが、2時間17分台、2時間18分台は多く誕生し、2001年に世界記録を出した高橋尚子選手の記録は歴代50位にも入っていない。
男女差は1.1倍
以下の2つの記事は2017年、そして続編は2019年に書きました。読んでいない方は是非読んでみてください。
要は短距離種目も、長距離種目も、世界記録も、日本記録もほぼ男女差は1.1倍だということを書いた記事です。究極のアスリートが究極の努力を重ねないと出すことができない人類最速の記録、日本人最速の記録の男女差はほぼ1.1倍と言う内容です。
記事を書いた当時と今では、記録は多少変わっているが、マラソンの世界記録で比較すると男子2時間01分09秒で、女子は2時間14分04秒なので1.1066倍です、日本記録で比較すると男子2時間04分56秒で、女子は2時間19分12秒なので1.1142倍と、どちらもほぼ1.1倍です。それが近年の日本の男女のタイムで比較すると1.1245倍と男女差が大きくなっているのです。
ハーフマラソンなどのタイムを見ても、そろそろ出ないとおかしくないと思っていたら、新谷仁美選手がヒューストンマラソンで2時間19分24秒の日本歴代2位の記録を出したのです。
しばらく20分が切れなかったのは、精神的な壁が選手の中にできていたのか、タイムより優勝争いや日本人1位争いを優先させたからなのかは分かりませんが、大きな壁になっていたのは間違いないと思います。その壁を新谷選手が壊したのだから、力のある選手が続々と20分切りをしていくでしょう。その結果野口みずき選手の日本記録も更新されるでしょう。