あらためて東京マラソンは他の大会と違うと感じた。

〜書いても何も変わらないことは書かない

 

今回参加者数を1%未満に縮小しての開催(以下実質中止とします)となった東京マラソンについて様々な非難が沸き起こっていますが、そろそろ出尽くしたと感じています。

様々な非難とありますが、東京マラソンの実質中止は仕方がないと思う方でもそれぞれの思いは様々でしょう。私は参加者ではありませんが、決定は仕方がないと思うも、規模や状況の異なる全国各地の大会主催者が中止判断するような状況にならないように動いて欲しかったのが一番の不満でした。

今回はそのあたりについて書くつもりはありません。なぜなら、書いても何も変わらないからです。念のため、東京マラソンに忖度する気はありません。

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〜東京マラソンのエントリー規約は素晴らしい〜

 

私が東京マラソンってホント素晴らしいと思ったことはエントリー規約です。

エントリー規約にこのような条項があります。(転記します。)

13. 積雪、大雨による増水、強風による建物等の損壊の発生、落雷や竜巻、コース周辺の建物から火災発生等によりコースが通行不能になった結果の中止の場合、関係当局より中止要請を受けた場合、日本国内における地震による中止の場合、Jアラート発令による中止の場合(戦争・テロを除く)は、参加料のみ返金いたします。なお、それ以外の大会中止の場合、返金はいたしません。

こちらは参加費を返すべきというマスコミ報道を含めて、多くの皆さんが読んだ文章だと思います。

でも2019年のエントリー規約はどうだったのか?調べたことがある方はいますか?2020年の上記部分に該当するのはこちらです。(転記します。)

9. 地震・風水害・降雪・事件・事故・疫病等による大会中止の場合、また参加料の過剰入金・重複入金の場合、返金はいたしません。

私は、今年のエントリー規約を中止になってから読みましたが結構驚きました。

2019年までは東京マラソンも他の大会と同じような規約でした。こちらは古河はなももマラソンにエントリー規約ですが比較してみてください。(転記します。)

地震・風水害・降雪・事件・事故・疾病・その他天災等による中止の場合は参加料は返金いたしません。

古河はなももマラソンを例に出しましたが、日本の大半の大会はこのように返金しないというものです。ではどのような時には返金することになるかと言えば、上記に該当しない主催者都合の場合ですが、それがどのような時かと考えると、同じ日に他の大会をせざるをえないことになったのでコースが重複することやボランティアが足りなくなり中止にする。とか、正当な理由なく開催できないようなミスをしたなどですが、行政が関係する大会であればそんなことはまずないでしょう。

〜 ”大会は準備段階で大半のお金を使ってしまっている”は本当か? 〜

 

ランナーであればこのような規約が書かれていることは経験的に知っているので、あらためてエントリー時に読むこともしないと思います。そのくらい「大会中止=参加費は返還されない。」ということは理解しているのです。

そのような規約がありながらも、大会を開催しないことで、大会を開催するよりも主催者に利益が出てしまうようなことがあっては申し訳ないと一部を返還する主催者もいます。

よく大会は準備段階で大半のお金を使っているので大会を開催しなくてもお金は残っていないと書いている方はいますが、それは正しくもあり誤りでもあります。それは中止を決めた時期によって相当違ってきます。例えばエントリー締め切り直後に中止を決めた大会があったとしたらどう思いますか?もしくはエントリー中でありながら中止する大会もあるのです。

〜 普通に考えて直前中止の大会と、開催日まで時間的余裕のある大会では使用経費は違う 〜

 

この件に関しては、本題とは逸れるので簡単に書きます。大会規模にもよりますが、大会会場で使う設備のレンタルや、タイム計測や処理費用、そして交通整理などの安全対策費用などは運営費の中でも結構な比率を占めています。大半の大会はこれらを専門に行う事業者へ発注するわけですが、大会が中止になった場合に、開催したのと同じ費用がかかる訳ではないでしょう。今は2ヶ月先の大会が中止になってますが、そのタイミングでこれらの事業者に対しキャンセルしたとして、キャンセル料100%なんてことはなく一定割合は残るでしょう。どのような契約をしているかは個別事案です。

台風などにより直前に中止したにも関わらず、返還する大会は、決算を行うことで、収支を明確にして多少なりとも余った運営費を参加者へ返還しているのです。少なくとも今年のように数ヶ月先の大会を中止した大会の残余額は、台風などにより直前に中止を決める場合よりは大きいでしょう。

また、興行中止保険に入っていて返還するための原資を確保している大会もあります。

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〜東京マラソンエントリー規約は今年から変わったのを知っていますか?〜

 

ちょっと話が逸れそうなので戻します。

今年の東京マラソンのエントリー規約は、昨年までのエントリー規約そして他の大会とは大きく異なっているのです。

今年のエントリー規約を見ると、これは損害保険会社の約款に近い書き方をしているので保険加入したと感じました。

またスタンダードな(特約をつけない)興行中止保険では地震・噴火・津波は対象外になりますが、それを補償対象に加える特約をつけているのだから東京マラソン財団のリスク管理への意識は相当高いです。

オーダーメイド型の保険契約ですから保険料を知っているのは、保険会社や契約者である東京マラソン財団の関係者、そして東京都くらいだと思いますが、関係者の書いた東京マラソンを楽しみにしていた皆さんへ。を読むと1,000万円を超えていると書かれています。

1,000万円を超えると行っても正確な金額は分かりませんが、仮に1,500万円だったとして、中止時に支払われる保険金は6億円程度になるので2.5 %程度です。2,000万円だったとして約3.3%です。

東京海上日動の保険料例

損保ジャパンの保険料例(代理店がPDFをアップしたものであり情報が古いかもしれません)

三井住友海上の保険料例

各社のページやパンフレットに記載された保険料例では保険金額の3%から10%であることを考えると地震補償がついてこの水準はかなり低い水準に感じます。もちろんイベント種類により中止リスクは異なるので一概には言えません。

また、1,000万円を超えると書いた記事の内容が正しいかどうかは確認できないので、正しいとした場合の水準です。

〜興行中止保険は1000万円以上かかるから他の大会では負担できないは正しいか?〜

 

この記事の中で、1,000万円を超える保険料は他の大会では負担できないとありますが、例えば参加費1万円、参加者6,000人であれば保険金額は東京マラソンの1/10になるので、保険料もその程度の水準になるのでお金がある大会でしかできないというのは正しくないと思います。

仮に保険料が参加費の3%であれば参加費1万円であれば一人当たりの保険料は+300円程度です。参加費を1,000円、2,000円上げる大会は珍しくないのでこの辺りは十分に賄えると思います。全ての大会が興行中止保険に加入するのに1,000万円以上かかるわけではありません。

東京マラソンは2019年の10,800円から2020年に16,200円に5,400円引き上げましたが、この引き上げは大会警備の拡充などとともに、この興行中止保険に加入する費用の捻出にも当てたのでしょう。

私が損保会社にいたのは既に6年前なので記憶は曖昧になり、また6年前と保険料水準なども変わっていると思いますが、地震補償は保険料が高いだけではなく、各保険会社とも引き受けることは極めて慎重だったと記憶してます。どの保険会社が引き受けているのかは分かりませんが、地震補償追加を提案するのであれば、合わせて感染症追加の提案もしているようにも感じています。ただ今回は、大雨や地震により中止し、参加費を返した場合には、保険会社から保険金が支払われたわけですが、たまたま補償範囲に加えていない中止理由が発生してしまったわけです。

また、今回は中止ではなく縮小だから参加費を返さないとしたエントリー規約との関係も、解釈次第ですが、そもそも主催者はエリートのみ開催なんてことは直前になるまで想定していない事態だったでしょう。もし想定していたなら、中止には縮小を含むとか、一部開催を含むなど加えていたはずです。

それと、興行中止保険の支払い条件は、イベントの中止ですから、仮に支払い対象になる強風や大雨だったとしても、今回のような縮小は保険金支払い対象になるのかどうかは微妙に感じます。

〜東京マラソンはランナー以外の方が驚くようなマラソンの慣習を変えようと動いた〜

 

今回この記事を書いた理由は、東京マラソンは中止の場合には参加費を返還しないというランナー以外の方々が驚くようなマラソン大会のスタンダード・慣習を変えようと、スタンダードな興行中止保険だけではなく、地震補償(通常地震補償には、津波や噴火も含まれる)も加えて契約したことです。今回は、たまたま補償対象外の事態がおきてしまいましたが、大会中止時に決して安くない参加費を返還しようと準備していたことはランナーのことを考えての行動です。

この点は評価すべきだと思うし、他の大会にも広がって欲しいと思っています。

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これは余談ですが、東京マラソン財団と保険会社が結んだ保険契約の約款や特約条項を読んでないのでなんとも言えませんが、「関係当局より中止要請を受けた場合」には保険金支払い対象になるから、エントリー規約に記載しているのでしょう。この場合の関係当局とは厚労省など省庁のことでしょうが、実際中止要請があったのであれば保険金支払い対象になりそうですが、興行中止保険の約款構成はまずこのような場合には支払うとした上で、支払いできない事柄を免責条項として列記していきます。感染症が免責条項に入っているのであれば関係当局から中止要請を受けた場合でも保険金はおりません。その場合は保険金以外での支払い原資を準備しないといけないように思います。(約款や特約条項を見てないので正確なところは分かりません。)これは余談です。

〜来年の優先エントリーは東京マラソンの大盤振る舞い〜

 

今回参加者からの不満が比較的少ないのは、来年の優先エントリーが認められるからでしょう。

仮に、参加費を返還してもらうか、来年の優先エントリーを認めてもらうかを選択できるとしたら、私なら迷わず来年の優先エントリーをいただきます。

ただし、今回、ある程度の参加費を返還ができる残余金など原資があるとしたなら、主催者はその選択肢を作っても良いのではないかと感じています。大半の方は優先エントリーを選ぶでしょう。

特に海外在住者が参加するには旅費など経済的な問題だけではなく、時間的な問題もあり、今年中止でも来年参加するのは困難な方もいるでしょう。

来年の定員が変わらないとして、今年の参加者が全員エントリーしたなら、それで定員になってしまい、今年の参加予定者以外はほぼエントリーできず、チャリティー枠の設定も困難になります。

もし選択制にして、参加費の返還を選択する人が一定程度いたなら、その枠でチャリティー枠など次年度分の募集できる余地が生まれます。(念のために寄付した10万円は返還できないでしょう。その分に関しては寄付先によっては寄附金控除なども適用してるでしょうし、そもそも積雪などによる中止であっても返還するのは参加費だけと規約に書かれています。)

東京マラソンほどではありませんが、エントリーが困難な名古屋ウィメンズマラソンは来年の優先エントリーは付与できないと発表していますが、これはスポンサーとの関係もあるのでしょう。東京マラソンはスポンサーへの過度な依存状態を変えていくべく参加費を上げましたが、参加費を上げてもエントリー希望者は変わりません。

また、参加費返還か、来年の優先エントリー(参加費は別途必要)のどちらかを選べるとして、来年の優先エントリーを選択される大会は東京マラソンを含めて一部でしょうが、そのくらい高いブランドイメージを作り上げていることも素晴らしいと思います。

〜東京マラソンと他のマラソン大会は違いすぎて中止判断は参考にならない〜

 

最後に今回実質中止を判断した理由は、大会自体は屋外イベントですが、ランナー受け付けを行うエキスポは屋内イベントです。まだ中止発表がなされる前の段階でリスクの高いエキスポをやめて、ゼッケンなど郵送対応に出来ないのかと考えましたが、会場のセキュリティの関係から顔認証登録をしているので、郵送対応ではこれができなくなります。感染症予防をしたことで、セキュリティが甘くなりテロが発生したら、それこそ東京オリンピックができなくなります。

少し前に書いた記事ですが、リスクを避けようとして、何かを変えると、別のリスクが発生することもあるのです。

手すりを掴むと感染する?〜危険を避けたつもりが危険を呼ぶことも〜

そのようなこともあり、タイムリミットが迫った中で、主催者は万策尽き、実質中止を決めたのかもしれません。

このような観点からも、東京マラソンと他の大会はまるで違うのです。

日本陸連主催ランナー向けイベント開催の意味と目的

こちらは4年ほど前に書いた記事ですが、平成25年の決算書を元に作成した記事です。大まかな傾向は変わっていないと思います。東京マラソンは主催者のスポンサー集めなどの頑張りにより実際にかかっている費用の数分の1の参加費で走ることができているのです。

合わせてお読みください。

東京マラソン参加費は驚くほど安い

 



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