24時間走308kmの意味〜世界トップレベルで戦う条件が変わった〜

前回上記の記事を書きました。こちらもお読みください。

(注)正式記録は309.399kmですが、記事は正式記録が判明する前に書いたものなので、そのまま修正しないでおきます。

リトアニアのAlexandr Sorokin選手が24時間走で、伝説のウルトラランナーであるイヤニス・クーロス選手の303kmを超える308kmという驚愕の記録を出しましたが、現時点でIAU(国際ウルトラランナーズ協会)の公認された大会なのかどうかは分かりません。公認された大会でなければ世界記録とはなりません。

ただ、Alexandr Sorokin選手は2019年IAU24時間走世界選手権の優勝者であり、本年4月に12時間走で170.309kmのIAU Recordsを出すレベルの選手であり、距離計測等が不正確な大会に出ることはないと思われます。したがって、IAU Recordsになるかどうかは別にして、308km走ったことは間違い無いでしょう。

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今回の記録について私が思うところを書きますが、その前に世界記録とは何か?について書きます。

世界記録とは

オリンピックや世界陸上の種目にウルトラマラソンがないことは周知の事実ですが、WA(世界陸連)が認定する世界記録やJAAF(日本陸連)が認定する日本記録にウルトラマラソンの種目はあります。

また、日本記録は、公認された競技会で、日本陸連の登録者が記録を出し、その後ドーピング検査など所定の手続きを経た上で日本記録として認定されます。世界記録も同様です。

そもそも、世界陸連、日本陸連ともにロードの公認競技会がある種目は10km、15km、20km、ハーフマラソン、25km、30km、マラソン、100km、ロードリレー(マラソンの距離のみ)で、世界陸連公認記録はないけど日本陸連公認記録にあるのは10マイル男子と、35km男子です。

市民ランナーにも馴染みがあるのは10km、ハーフマラソン、30km、マラソン、100kmくらいで、そもそも15kmや25kmなどのレースはほぼありません。これらの日本記録の大半はマラソンの途中記録が公認されています。

ポイントは

・ロードレースには公認記録となる種目は複数あるが、オリンピック種目はマラソンのみ

・WA(世界陸連)およびJAAF(日本陸連)の公認記録対象種目に100kmがある

42.195kmより長いレースのことをウルトラマラソンと呼び、日本では50kmや100km、そして200kmを超えるレースや、6時間、12時間、24時間といった時間走が開催されていますが、上記よりWAが認定する世界記録は100kmのみです。100km世界記録は1998年のサロマ湖ウルトラマラソン(公認競技会)で砂田選手が出した6時間13分33秒。そしてその記録を2018年のサロマ湖ウルトラマラソンで更新した風見選手の6時間09分14秒と20年以上にわたって日本人選手が保持しています。

では、50kmや、12時間走、24時間走の世界記録はどのような記録かと言うと、国際ウルトラランナーズ協会(IAU: International Association of Ultrarunners)が公認した記録です。同様に日本記録は一般社団法人日本ウルトラランナーズ協会(JUA:Japan Ultrarunners Association)が公認した記録になります。

日本国内の公認レースは、100kmではサロマ湖ウルトラマラソン、四万十川ウルトラマラソンや柴又100kで、24時間走は神宮外苑24時間チャレンジのみとなっています。神宮外苑24時間チャレンジに関しては、私が参加した2018年大会を最後に開催されていませんが、その時点でもドーピング検査などの体制が取れないことからJUA公認の日本記録にはなっても、IAU公認の世界記録にはならないとアナウンスがあった記憶があります。

冒頭で、Alexandr Sorokin選手が308kmを出した記録は、世界記録かどうかわからないと書いたのはそのような理由からです。

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280km以上の記録は歴代で3人しかいなかった

1997年に303km走ったイヤニス・クーロス選手は生涯で280km以上を12回記録しました。今回の大会が開催されるまでに280km以上の記録を出したのは原選手の285.366kmとZhalybin, Denis(ロシア)の282.282kmの2名だけ。それくらいクーロス選手は突出した存在なのです。その記録を更新したのだから新時代の幕開けです。

これからは300kmを超えることが世界トップレベルの大会では求められ、トップ選手は優勝争いをするために300km超を目安としたペースメイクを行うでしょう。

300km超えるには100km6時間40分程度のスピードが必要

以前、100kmマラソンのタイムから24時間走の到達可能距離を探ると言う記事を作りました。これは24時間走で○km走るには少なくても100kmを○時間以内で走らないと難しいという目安ですが、24時間走の大半のトップ選手は範囲内に入っていました。

この記事中に、24時間走の最大距離は以下の通りと書きました。

男子 1920÷100キロタイム(h)

女子 2040÷100キロタイム(h)

これは、例えば100km8時間の男子選手であれば、1920÷8=240kmという計算になります。

今回は、この計算式を使って、24時間走で300kmを超えるには100kmでどのくらいの力が必要なのかを計算すると、以下の数値になりました。

300=1920÷100kmタイム → 100kmタイム=1920÷300 → 6.4h=6時間24分

ただ、トップクラスの選手は女子選手並みの係数で走っているケースもあるので、女子選手の計算式を使って計算すると、以下の数値になりました。

300=2040÷100kmタイム → 100kmタイム=2040÷300 → 6.8h=6時間48分

この結果からも少なくとも100kmを6時間40分程度で走る走力が必要になってくることが分かります。

参考までに、Alexandr Sorokin選手の100km自己ベストは6時間43分13秒ですが、4月に12時間走世界最高記録(170.309km)を樹立した時の100km通過タイムは6時間54分25秒です。そこからの約5時間で70km走ったのだから、100kmは余裕を持って通過しています。この時170kmではなく、100kmでレースを終えるつもりで出し切れば6時間30分前後のタイムは出せたのではないかと推測します。

また、2019年の世界選手権優勝のAlexandr Sorokin選手の記録を上回り、世界ランキング1位となった石川佳彦選手の24時間走の記録は279.427kmです。石川選手の100km自己ベストは6年前の2015年のサロマ湖ウルトラマラソンで出した6時間52分45秒ですが、現在の力でサロマ湖を走れば、この時の記録は十分に更新すると私は考えています。

石川選手は現在でこそ世界トップレベルのランナーが走る200km以上のウルトラマラソンを中心に走っていますが、2015年の福岡国際マラソンでは2時間24分04秒を出しているスピードランナーでもあります。

(撮影:石川美紀さん)

2020年、2021年と中止になったサロマ湖ウルトラマラソンが開催されていたなら、もっと増えたと思われますが、100kmを6時間40分以内で走った日本人ランナーは歴代で25人しかいません。

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世界トップレベルで戦う条件

260kmを狙って走る24時間走であれば、100kmで7時間30分前後の力があり、24時間走特有のレースマネジメントなどを身につけたウルトラランナーであれば到達可能な距離でしたが、その舞台が300km以上になったなら、そこで戦うことができるのは100km6時間40分以内、フルマラソンであれば2時間30分以内を出せるくらいの土台が備わった上で、24時間走特有のレースマネジメントや経験を持つウルトラランナーに絞られてきます。

現在の100kmはフルマラソンで2時間15分くらいの記録がないと戦えないスピードレースになりましたが、24時間走に関してもスピード化が一気に進んできたと感じています。

ウルトラマラソンは「ゆっくり長く走る」ではなくなった

ウルトラマラソンは、「ゆっくり長く走る」というイメージをお持ちの方は少なくないと思いますが、少なくともトップレベルのレースでは、既にそのような時代は終わっています。100kmマラソンの序盤はキロ3分30秒の集団ができ、そこから振い落としが始まるのです。

24時間走は100kmほどは速くありませんが、308km走る平均時速は12.83km/h(約4’41/kmペース)です。このペースはフルマラソンを3時間17分17秒で7.3回走ると到達する距離で、100kmなら7時間47分台で3回以上走る距離となります。トップ選手でも後半はペースが落ちますので、前半は上記より速いタイムで走ることになります。当然のことですが、100kmのタイムが7時間47分のランナーが同じペースで続けて3回以上走ることはできません。100kmで終わるのであれば6時間40分ほどで走るくらいの余裕度が必要ということです。

アジア記録保持者の原選手は100kmも日本代表に選手されるスピードランナーでしたが、原選手や石川選手のようなスピードを持った選手が本気で24時間走にチャレンジしないと世界レベルでは戦えない時代になりました。

コロナ禍で日本のウルトラマラソンが止まっている間に、世界は大きく動いています。

日本国内で大会が開催されないことには選手の活躍の場がありません。2021年の世界ランキングを見ると、コロナ禍でもヨーロッパ各地で24時間走が開催されていることは分かります。ヨーロッパでは大規模な都市型マラソンは開催されていませんが、小人数でクローズドな公園や陸上競技場で開催できる24時間走は再開されていたのです。日本でもいくつかの大会が開催されていますが、DUVウルトラマラソン統計に掲載される世界ランキング対象大会は開催されず、現時点で日本人でランキングされている選手はいません。ちなみに2018年はTOP100に14人がランクインしていました。

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