トレイルランニングで怖いもの〜リスクマネジメントの観点から考察〜

2016年9月8日に公開した記事を、2017年9月27日に続き、2018年9月27日に少しアップデートしました。

私は年間を通して山に入る時間は短いこともあり、大きな事故に遭ってはいませんが、ひやりとしたり、起こり得る事故を想像すると怖くなることがあります。

まだ、トレラン経験がほとんどない時に走った第一回UTMFの前はいろいろ考えてしまいました。

第一回UTMFの参加資格は現在のようなポイント制度ではなく、100kmレースを1回完走か、50kmレースを2回完走でした。

当時の私はボロボロになって完走したハセツネがトレイルの最長距離で、それも1回だけだったので非常に興味がありながらも参加資格がないと思いつつ、参加資格をじっくり読んでみるとトレイルレースとは書いていないのです。もちろん主催者はトレイルレースを考えていたと思われますが、主催者に確認すると同様の質問が相次いでいたようで、『書いてある通りです。』と即答でした。チャレンジ富士五湖や野辺山ウルトラのようなロードの100km完走でも良かったのです。

今思うとそのようにトレラン経験の浅いランナーがUTMF史上最凶に厳しかったと第1回から第5回まで全ての走ったランナーが話す天子山塊を含む100マイルを走ることは無謀だったと思います。

レースを振り返ると今でもゾッとくることが多々ありますし、レース前に天子山塊を試走した友人の感想を聞くとヤバイなーと感じました。

距離的には100マイルを超える距離を走った経験はありましたが、その時は自分にできることを愚直に行うしかないと、リスクを極少化することを優先してレースを進めたことで怪我なく完走することができました。

今考えてもこの時の経験は大きいです。

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タイトルに戻ります。

私が山で怖いものを箇条書きにしてみます。

・熊、猪、猿など野生動物

・マムシなど毒蛇

・スズメバチ、ジバチなど

・ダニ、ヒル、ブヨ

・落雷、豪雨など悪天候

・道迷い、ケガ等による遭難

・滑落、転倒

・噴火、地震、土石流、土砂崩れ

周りの安全を考えないランナー(追加しました。)

その他にもあるでしょう。

山に限りませんが、リスクに対応するために一番大事なことは、リスクを知ることです。

知らなければ対応のしようもありません。

またリスクがあることを漠然と知っているだけでは回避出来ません。

リスクマネジメントの分野では初歩的な話ですが、上記のように箇条書きしたことは、リスクの洗い出しといいます。

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洗い出しをしたら、次にリスクを分類します。

大事なことは、

頻度(frequency)と

損害(damage)の見積もりです。

FD分析(解析)と言われます。

危険を完全に取り除くことは出来ません。

トレイルランニングを例にとると、どんなに経験豊富で並外れた体力があり、リスク管理がしっかりできたトレイルランナーだって完全に事故を防ぐことは出来ません。

ただ事故にあう確率を減らしたり、事故にあった時の被害(損害)を小さくすることも可能です。

それがリスクマネジメントの大事なことです。

今回は簡単に書きますが、考えられるリスクをそれぞれFD分析して視覚で把握出来るようにするのが、リスクマッピングです。

前の仕事ではよく作りました。

縦軸、横軸をそれぞれ頻度と損害にして、それぞれのリスクをマッピングしていのです。

その上で対策を考えます。

対策は大きく分けると

軽減、回避、転嫁、受容  です。

例えば道迷いなどで遭難する可能性があるなら、そもそも山に入らないのが一番安全確実です。これは回避です。

でも山に入りたいなら、道迷いをしないように山で使えるGPSを用意したり、地図読みの練習をして迷わないよう準備をしたり、ベテランと一緒に入るのもリスクを減らす一つの方法です。これは軽減です。ただこれだけで確実に遭難を防ぐことはできません。そもそも絶対に遭難を防ぐこと方法などないでしょう。

転嫁は事故が起こった時に、損失を可能な限り小さくすることです。保険などで対応することが多いです。遭難の例で考えるなら、遭難に備えて保険に入るとか、事前に遭難した時の対応を考えておくなどです。また入山届けが必要な山であれば提出は当然だし、家族にルートなど知らせておくことも遭難時に発見しやすくなります。Facebookなどに行程をアップして、山の美しい画像などアップすることで捜索の目安にもなります。

受容はその通りの意味で、危険を受け入れることです。

例えば活火山は日本にはたくさんあります。警戒宣言が出ずに噴火に巻き込まれることもあります。噴火する可能性はあるけど、それは1時間後なのか50年後なのか分からない。ヘルメットを被るなどリスク軽減をはかったとしても、近くで噴火したら逃げようもありません。そのようなことは日常生活でも多分にあります。横断歩道を歩いていても、青信号を渡っていても自動車が突っ込んでくることもあります。

このあたりのことを書き始めると本1冊くらいの量になってしまうので、深入りはやめます。

今回書きたかったのは、トレイルランニングをするときに、どんな危険があるかを把握して、それらにあわないよう準備をする。万が一あってしまったら、被害を最小限に留めるための対策を考えておきましょうということです。

トレラン大会の必携品にはこれらのことが考慮されていますので、必携品にしている理由など考えると色々見えてきます。

話を少し進めます。

私自身、小さなケガもしたくないけど、特に死亡など重大事故は絶対に避けたい。

でも、滅多にないことを恐れていては何も出来ません。

そんな観点から調べてみたので、下記のデータを比較してみてください。

日本における死亡者数です。

*全て山での被害だけではありません。

今年は既に4人が死亡していますが、毎年全国で1名くらいです。襲われた件数は100件前後です。

マムシ

年間3000人が被害にあい、10人が死亡しているといわれてます。

マムシの生態 ナマ情報

10年以上前のデータですが、日本での落雷による年平均被害者数は20人で、死亡者数は13.8人とのこと。

ハチ

年間20人前後の死亡者が出ているようです。

ハチ刺されと死亡事故

マダニ

最近危ない話を聞きますが、こんなにも感染例が増えているのですね。

ダニ感染症で死亡例 国内感染53人 21人が死亡

滑落やケガ、道迷いによる遭難はもちろん怖いけど、私が山に入る時に一番怖いのは、熊、スズメバチ、落雷です。

ただこうして数値を見ると、熊による死亡事故は思ったより少ないのです。

雷も怖いけど、山だと避難する場所もないケースが多いから、防ぐには落雷の多い時期には近付かない。そして落雷の多い時間帯になる前に下山する行程を組むくらいしかありません。

マムシも怖いけど、トレイルランニング中に噛まれたって話も私は聞いたことありません。怖そうなのは藪漕ぎですが、そのようなレースは少ないでしょう。

マダ二も走っていれば大丈夫な気もしますが別に調べてみます。

こうしてみると、トレイルランニングで1番怖いのは、スズメバチや地蜂だと思います。

なぜなら、

・熊は基本的に人間を恐れて逃げるけど、スズメバチは襲ってくる。

・実際にたくさんのラン仲間が刺されるなど身近で被害が発生している。

・年間20人くらいの死亡事故が発生している。

これってFD分析で考えると、頻度も高くて、損害も大きいということです。

大会開催中に襲われたという話も結構聞きます。スズメバチだけではなく、地蜂被害も多いですね。

絶対に刺されないようにすることは出来なくても予防はできます。

例えば服装です。

先日集団で襲われ救急車で運ばれた仲間に聞いたら、黒いウェアを着ていた方はそこを刺され、黒いウェアを着てない方は、黒髪の頭部を刺されたとのこと。

ハチは黒い部分を目掛けて頭や眼を狙ってくると言われてます。

もし、一緒の仲間は黄色や白のウェアを着ているのに、自分だけ黒のウェアを着ていたなら、真っ先に襲われるのは自分です。

ウェアだけではなく、黒い髪の毛を隠すように白や黄色など明るい色の布で頭を覆った方が安全です。

と以前書いていましたが、蜂刺されにあった方にアンケートに答えていただいたらそうでもないようです。

ランナーの蜂刺されに関する調査アンケート結果

トレイルレースでは、事前にコースをチェックして、スズメバチの巣があれば撤去などするでしょうが、ジバチの巣は地面にあったりするので分からないケースが多々あります。試走を少人数で走る時には大丈夫でも、大会開催中にたくさんのランナーが走る振動や音に興奮して襲ってくることは度々あります。

もしかすると、前のランナーを抜こうとコース脇にあるジバチの巣を踏んでしまったランナーがいるのかもしれません。

検索すればいろいろ出てきますが、ハチが襲ってくる状態ならまずは逃げるしかないでしょう。

そして、刺された箇所の周囲を強くつまみ毒を出すか、吸い出す必要がありますが吸い出した毒は飲み込まないようにしましょう。ポイズンリバーで吸い出すのが安全と言われています。そして、水で洗ってから抗ヒスタミン軟膏やステロイド剤などを塗布すると良いようです。

また、手足を刺されたなら、胴体に近い方にテーピングを巻くと毒が回りにくいようです。

トレイルランニングをするなら、ポイズンリバーだけではなく、これらの薬も準備した方が良いでしょう。テーピングも色々使えるので私は持参しています。

また、頭に刺されると刺された場所が分かりにくいので、そもそも刺されないように覆った良いと思います。

さらに眼を狙われるなんて考えただけで怖いので、夜間でもクリアレンズなどのサングラスをかけることもあります。

熊多発地帯を通過するトレランレースは怖いですが、熊鈴つけて鉢合わせしないようにしてもあってしまうことはあるでしょう。

ハチに関しても、気をつけても刺されることはあるでしょう。

雷だって一緒です。

山に入る以上は絶対に安全なことはありませんが、リスクを減らすことは出来ます。

50%の確率で蜂に刺されるのと、10%の確率で刺されるのだったらどちらが良いでしょう?

また、刺されて毒が全身にたくさん回ってしまって苦しむのと、迅速に応急処置をして早くよくなるのどちらが良いでしょう?

リスクマネジメントとはそういうものです。

 

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前回はここで終わっていますが、追加したいのは、蜂や熊や落雷などは外的な危険要素ですが、自らの注意で防ぐことができる転倒などはダメージの大きさも頻度も本人の注意次第です。

トレイルを走るランナーは経験豊富な上級者でも足首を捻挫しないよう足にテーピングを貼って固定して捻挫リスクを小さくします。また転倒したら大怪我をする岩場などは決して無理しないと自分を抑えるだけでも重大事故のリスクは減少します。

また、初心者ランナーには、明るいうちに下山する予定だからライトは必要ないと持たない方もいるでしょうが、万が一途中で怪我をして、下山に時間がかかればすぐに暗くなります。暗くなれば滑落や道迷いなどのリスクは増大します。

またライトも持たない方が簡易テントやサバイバルブランケットなど持っていくはずがありませんが、暗闇で動けなくなり体温が急激に奪われたら重大事故に繋がります。ライトさえ持っていれば無事下山できたのに、命を落とすことになるかもしれません。

自分に都合の良いように考えずに、都合の悪いことが発生してもなんとかなるよう備えておくことがリスクマネジメントです。

トレイルランがメインでなくマラソンのトレーニングの一環として山に入る方もいますが、今回書いたようなリスクがあるだけではなく、山のルールやマナーを知らずに入ると登山者や他のトレイルランナーを危険な目に合わせたり、不快な思いをさせることに繋がります。

山を走りたいと思ったら、まずは経験豊富な方に連れて行ってもらってください。

初心者同士で山に入るなど里山であっても危険だと思ってください。



「トレイルランニングで怖いもの〜リスクマネジメントの観点から考察〜」への3件のフィードバック

  1. 2017:11:19に秩父トレランにおいて痛ましい滑落事故が発生いたしました。

    トレランにおける危険回避などは熊、蝮、蜂など等々をあげてますが最も怖いのは登山者との接触においての事故じゃないでしょうか?
    私自身登山中になんども走者と出会い危険を感じることが多くあります。考えられないスピードで下り避けようともしない( ドケ〜と言う人もいる)傍若無人な態度に腹立たしくなります。

    山はお前達だけのものじゃないと言う人もいますが日本の山の事情も考えてトレラン普及を考えた方が良いと思います。
    高尾でのトレラン自粛や鎌倉での規制検討など応援したくなります。
    秩父は私のホームグラウンドで何度も登ったことがありますが今回の事故に痛ましいと思う反面少しですがザマァ〜見ろと悪心を持った自分も悲しくもあります。

    今後、お互いに山が楽しくなるうにしましょう。

  2. 動物や虫も怖いですが個人的には人間も怖いです。
    痩せ尾根を歩いていた時のことですが、
    他のトレランの方とすれ違った直後に4~50代の男性の登山者ともすれ違ったので軽く挨拶をすると
    「兄ちゃん危なかったなー」と言ってきたので私は振り返って「そうですね。ちょっと危なかったですねー」と返すと
    その登山者は続いて「あんな奴蹴り落としちゃえば良いんだよ、どうせ分かんないしな」と言って笑って通りすぎて行きました。
    私は何をそんなに怒ってんだ?変な奴に遭遇したなと思いましたがしばらくして「どうせ分かんないし」と言ってた事を思い出しゾッとしました。

    上記の話は笑えない冗談だと思いますが喧嘩による怪我も山では致命的なのでこういったしょうもないトラブルのリスク管理も普段以上に気をつけた方が良いなと思います。

  3. 動物や虫も怖いですが個人的には人間も怖いです。
    痩せ尾根を歩いていた時のことですが、
    他のトレランの方とすれ違った直後に4~50代の男性の登山者ともすれ違ったので軽く挨拶をすると
    「兄ちゃん危なかったなー」と言ってきたので私は振り返って「そうですね。ちょっと危なかったですねー」と返すと
    その登山者は続いて「あんな奴蹴り落としちゃえば良いんだよ、どうせ分かんないしな」と言って笑って通りすぎて行きました。
    私は何をそんなに怒ってんだ?変な奴に遭遇したなと思いましたがしばらくして「どうせ分かんないし」と言ってた事を思い出しゾッとしました。

    上記の話は笑えない冗談だと思いますが喧嘩による怪我も山では致命的なのでこういったしょうもないトラブルのリスク管理も普段以上に気をつけた方が良いなと思います。

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